その1 久々の登場 


投資家

「村上ファンド」と聞いて懐かしくて、またもアマゾン衝動買い。
村上世彰氏の「最初で最後の告白」と聞いたら、
これは読まずにいられません。
「ニッポン放送事件」、「ライブドア事件」など関連の当事者は
皆逮捕されて消されてしまいましたからね。


「本当はどうだったのだろう?」

本人の弁をやはり聞いてみたいものですから。


当時、この問題をずいぶん研究したものです。
自慢ではないですが、東京税理士会の研修講師となって、
税理士相手に講義したこともあります。
ライブドアでホリエモンをサポートしたCFOが税理士だ
という話しは結構ウケタものです。

このニッポン放送事件に絡めて、

「会社は誰のものか?」

というテーマで研究したのですね。
このテーマは、中小企業の税務顧問である私にとっても、
永遠のテーマでもあります。


この「会社は誰のものか?」という問いに対して、
強烈なポリシーを持った男。
これこそが村上世彰氏なのですね。


「会社は株主のもの」


これこそが欧米流の考え方なのですね。
「コーポレート・ガバナンス」を日本で広めようとして
残念ながら失敗した・・・。


でも「村上ファンド」は日本では叩かれてしまったけど、
考え方そのものは間違っていなかったと、当時も思っていました。
この本を読んで尚更それをまた感じました・・・。


まず、「生涯投資家」と言い切る村上氏の投資家デビューのお話から。


小学校三年生の時に父親から100万をもらい、そのお金で
株を買います。
一株2百数十円のサッポロビールの株を2000株買ったのが
最初の投資です。
すごいですね。
さらに高校生の時に、同和鉱業という仕手株にも手を出した
というから驚きです。


村上氏は関西では有名な進学校の灘高校出身ですね。
その灘高校時代に仕手株にまで手を出す投資家だったのですね。

その後東大法学部に進み、通産省に勤めます。

これだけ株が好きだったら、
どうして野村證券に進まなかったのだろうと本当に思いますね。
でも、この本を読んで納得しました。


投資の師匠は父親だったのですね。
本人は投資家でもあった父親の後を継ぎたかったのですね。
でも、

「国家というものを勉強するために、ぜひ官僚になれ」

その師匠の一言で、彼は役人になったのです・・・。




その2 通産省を退職し企業 


村上氏は通産省を退職する1999年までの3年間、
コーポレート・ガバナンスの研究をしていました。


コーポレート・ガバナンスとは、

「投資先の企業が健全な経営が行われているか、
企業価値を上げる=株主価値の最大化を目指す経営がなされているか、
株主が企業を監視・監督するための制度」

なのですね。


アメリカでは90年代に入ると、この株主が経営者を監視する仕組みとして
このコーポレート・ガバナンスという言葉が当たり前のように、
使われていたのですね。
ところが、日本ではまったく言われていなかったのです。


村上氏は役人の立場で、この制度を普及させることはできないと
悟ったのです。

つまり、投資家として自らプレーヤーになって変えていくしかないと
判断したのです。
通産省を退職して起業します。


設立の際に応援してくれたのが、オリックスの宮内氏。
45%も出資してくれます。
さらに、当時の財界のそうそうたるメンバーも協力。
日本マクドナルドの藤田田社長、セゾングループの堤清二会長、
リクルートの江副浩正氏、さらに福井日銀総裁ら・・・。


結局第一号ファンドは38億円もの資金を集めます。
若干40歳の元役人というだけで、これだけの人脈と
資金力はすごいですね。


この集めた資金で最初に手掛けた案件は、生糸メーカーの昭栄への
投資です。

上場会社は株価に発行済み総数をかけたものが、「時価総額」と呼ばれます。
つまり、上場会社としての市場価値ですね。
時価総額50億円程度の会社ですが、無借金で資産が500億円も
あることに着目しました。

資産の内訳は、保有していたキャノンの株式だけで200億円、
その他上場株や不動産など。
こういう観点で投資をするのが、村上ファンドなのです。

ここがポイントです。
こんな投資判断をする人は当時誰もいなかったのです。
「資金調達の必要もない企業が上場している意味がない。」
そこまで考えるのです。


そこで当時850円程度の株価であったところ、
2割程度のプレミアムをつけて「株式公開買付け」を行いました。

この株式公開買付けとはTOBと呼ばれるもの。
日本初の敵対的TOBです。

ところが、見事に失敗します。
6.52%としか株は集まらなかったのです。


ただ失敗はしたものの、村上氏の名前がこれで全国区になりました。
さらに株価も3倍にまで跳ね上がり、ファンドとしては大成功・・・。
さらに海外からも資金が集まってきました・・・。





その3 金儲け悪いことですか 



「村上ファンド」が日本で最初の「物言う株主」と有名になったのが
この頃です。
具体的には、株主としての権利を行使し、企業価値が向上するよう
経営の見直しを求める投資家、これを
コーポレート・ガバナンスの先進国アメリカでは、
Activist(アクティビスト)呼ばれていました。


さらに、この頃株式市場では、「村上銘柄」という言葉もありました。
村上ファンドが買うと、必ず値上がりするのですね。
金融証券取引法で5%以上保有すると届け出がされます。
その届出がされると、急に市場で買われるようになるのです。

この本でも、
「届出は月2回の届け出期間があるので、届出がされるまでが勝負」
のようなことも書いてありました。
連戦連勝ですからファンドの資金は次々に集まったようです。

この本には投資家の心構えが書いてあります。

「投資家はお金を増やすために投資するのだから、基本的には
リターンがすべて」

これはそうでしょう。
特に海外の投資家はそれがより顕著なのだそうです。
日本ではアクティビストとしての行動に共感して出資する人が
多かったそうですが、アメリカの投資家のまったく違い、
投資に対するリターンがすべてだったのです。

Photo

 


ここで村上氏がその後インサイダー容疑で逮捕された時の名言を
思い出します。

記者から、

「法律内であれば何をしてもよいとお考えですか?」

という問いかけに対して

「金儲け、悪いことですか?
みんなが一生懸命お金を儲けて・・・ルールの中で一生懸命に
株取引をして儲ける・・・何が悪いんですか?}


ファンドマネージャーという仕事は儲けることが
すべてだったのでしょう・・・。




その4 日本のジョージソロス


「金儲け、悪いことですか?」


これは当時有名になったフレーズですね。
村上ファンドとともに、当時ホリエモンこと堀江貴文氏が
株式分割より巨万の富を得て、つぎつぎと会社を買収していた時代です。
さらに光通信というITバブルの象徴のような会社もありました。


村上ファンドもまた、

「汗をかかずに大金を設ける人」

のような「悪のイメージ」だったのですね。

もっというと、阪神タイガースまで買収しようとして、
関西人の逆鱗まで触れてしまった・・・・。
マスコミもそれを一斉に叩いて、結局「インサイダー容疑」で
逮捕さら、表舞台から消されてしまいました・・・。


今さらその善悪を問うつもりもないですし
今さらながらあえてこういう本を出したということは、
「私は悪人ではない。投資家に過ぎない。」
そう言いたかったのでしょう。


投資家として世界で最も有名な方は「ジョージ・ソロス氏」ですね。
将来、「日本のジョージソロス」になりうる方だと思うのです。


彼の投資術に学ぶべきこともあると思うのですね。
彼の投資術の基本は三点。
これはなかなか難しいですが参考になります。

1. 期待値
2. IRR
3. リスク査定


期待値は、これは大昔、中学校の数学の授業でやりましたね。
「期待値が1.0を超えないと投資する意味がない」
これはそうでしょう。
なので、宝くじは0.3、公営ギャンブルは0.75、カジノは0.9
よって村上氏はこういうことは一切やらないのだそうです。
投資と投機は当然ですが違うのですね。


話はそれますが、私が30年以上前に早稲田商学部で
専攻したのは「投資管理論」でした。
一応「投資と投機」の違いについては勉強したものです・・・(ちょっと自慢?)


IRRは日本語で「内部収益率」と呼ばれるものです。
でも、難しいので説明は省きます。
個人的には「証券アナリスト試験」で結構勉強しました・・・。
彼の投資判断はIRR15%が基準なのだそうです。


「期待値」と「IRR」とさらに「リスク査定」で投資するか否かを
最終判断を行うそうです。
リスク査定で重視していることは、数字や指標の判断よりも
経営者やビジネスパートナーの性格や特徴を読むこと、
つまり定量的な分析より、定性的な分析が重要・・・。


この3つが投資判断ではもっと大事なのだそうです。

 

どうですか?
金儲けは嫌いですか?
悪いことだと思いますか?


投機は博打と同じです。
投資は投機とは違うのです。


日本のジョージソロス氏が教えてくれることです・・・。




その5 ニッポン放送事件


ニッポン放送とフジテレビの問題について詳しく書かれていました。
ここを彼は書きたかったのですね。
この件により、インサイダー容疑で逮捕され有罪となった訳ですから・・・。

このお話は懐かしく読みましたね。
このネタで何度か「会社は誰のものか?」
という講義をしましたから。


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お忘れの方のために多少解説してみましょうか。
2003年当時のフジサンケイグループの図です。
ニッポン放送がこのフジサンケイグループの親会社で
上場企業です。売上高337億円で時価総額1502億円です。

フジテレビの32.29%を持つ親会社ですね。
売上高はニッポン放送の10倍の3337億円!
時価総額はニッポン放送の4倍の6231億円です。

「孝行息子」なのでしょうか。
親会社の株価より子会社の方が高く買われているのです。
ただ資本市場の論理から言えばいびつな関係です。


Photo_2

 


この両者の時価総額の推移です。
フジテレビの株式の価値がまったく反映されていないのです。

 

さらにフジテレビの子会社に売上高1368億円の産経新聞があります。

その他、ポニーキャニオン、サンケイビル、APTVなども
間接的に保有しています。

このいびつな関係に彼は着目して、ニッポン放送の株を購入することを
決めたのですね。

つまり、ニッポン放送の株式全部を仮に1502億円で買えたら、
すべてこのサンケイグループが手に入るのです。


こんな発想で投資をする人はかつて日本にはいなかったのです。
もちろん、ファンドマネージャーである村上氏は
当然ですが「儲けるため」にこれを実行したのだと思います。

ただ再三、指摘しているように「コーポレートガバナンスの不在」
が招いた結果であることを世間に周知させたかったのですね。

つまり、「上場しているということはどういうことか?」
「上場企業のあるべき姿とは何か?」
を市場に問いたかった訳です。





その6 聞いちゃった事件


ただここで村上氏が何度も力説しています。

「私はニッポン放送の株式取得を通じて、ニッポン放送の経営や、
ましてフジテレビの経営に乗り出す気など、さらさらなかった。」

これは、本当なのしょう。

持論の通り、「コーポレート・ガバナンスの不在が招いた状況を
正しかった。」訳です。


ただ、

「このゆがみを修正する過程で、フジテレビによるTOBや
株式交換による持ち株会社化を想定していた。そこであろう投資利益が
ファンドマネージャーとしての大きな魅力だったことは、もちろん事実だ。」


事実ニッポン放送への投資後、いびつな資本関係を正すために
提案を何度も繰り返したそうです。
何を提案したかは「ニッポン放送が危険な相手から買収を受ける事態
への予防策」だったのです。
まさに「もの言う株主」ですね。

ただいろいろ提案したものの、会社側の「厚い壁」に阻まれます。
それでも、2003年6月末時点で7%を超えます。

この時点でいよいよ「プロキシ―ファイト」の準備を始めています。
さらに外国人株主からも株式を買い集め、ついに2005年になると
20%近くまで保有に。


ついに、2005年1月17日、フジテレビが50%以上の
株式を取得を目指してニッポン放送の株式をTOBすることを発表。

村上氏のシナリオ通り、コーポレート・ガバナンスのゆがみを
是正することとなったのです。
結果的にここで終われば、村上氏は大成功だったのですね・・・。


そこで邪魔をしたのが、ホリエモンこと堀江貴文氏。
この本はホリエモンへの恨み節でもあります・・・・。

このころ「メディアとネットと融合」という言葉が盛んに
言われ出した時代です。

錬金術で大成功したネットの雄であるホリエモンは、
どうしてもそのメディアが欲しくなったわけなのですね。


そこで有名なお話。
2月初めに、村上氏へホリエモンは電話を入れます。

「何とか株を買いたいので、ニッポン放送株を保有している
外国人投資家を紹介してほしい。」

と聞いちゃったのです。
これが有名な『聞いちゃった事件』

当然、彼はこの時点で、インサイダー場情報として、
ファンド社内で登録し、日本放送株式の買入れを
停止した・・・。

その直後に、ライブドアはリーマンブラザーズから資金調達に成功し、
2月8日、ライブドアがニッポン放送株式を35%保有を発表。


でも、その後、この『聞いちゃった事件』により、
インサイダー容疑で逮捕され、
最高裁まで争われたものの有罪確定・・・。




その7 そこまで村上タタキ?


この本の後半は投資に関する彼の鋭い観察眼が非常に参考になり、
いろいろ書きたいことはたくさんあるのですが、
そろそろまとめましょうか。


村上氏が2006年に逮捕され、2011年まで裁判を行っていました。
その間、強烈なパッシングを受けたせいか、日本を離れシンガポールに
居を移します。


有罪が確定して数年後、2015年11月村上氏の事務所に
強制捜査が入ります。
これは久しぶりの報道でしたね。


村上氏の会社に入社したばかりの長女に容疑をかけられます。
当時彼女は妊娠7か月。
当然産休中であったにも関わらず、容疑がかけられ、
度重なる調査のストレスからついに死産となってしまったようです。
この本を読んで初めて知りましたが、それがきかっけで
この本を書いたのです。


「村上氏タタキ」がその子供までタタこうとする、
このマスコミの姿勢に我慢が出来なかったのでしょう。


日本で「コーポレート・ガバナンス」の初代伝道者として
やはり明確にすることが彼の責任の取り方だったのかもしれません。


ただここ数年で、「物言う株主」が増え、技研攣権行使の方針の開示も
義務となり、日本としてコーポレート・ガバナンスに関する指針が
國として示され、投資家と上場企業のあるべき姿がだいぶ明確に
なってきたようです。
これこそが彼の目指してきたものです。

 

最後に彼の言いたいこと。


「私は多くの批判を受けてきた。
その原因として、自分の信念を信じ、その信念に自信を持ちすぎて、
早急に物事を進め過ぎた場面があったことも、今になって振り替えると
否定できない。
しかし、その方法論や私の言動に賛否はあっても、
私が目指してきたことは常に『コーポレート・ガバナンスの浸透と徹底』
であり、それによる日本経済の継続的な発展である。」


お分かりになるでしょうか。
これが村上氏の最初で最後の告白「日本経済への遺言」です・・・・・。


 

(がんばれ!日本のジョージソロス シリーズ おしまい)

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