その1 キリンビールのエリートサラリーマンが突然・・・



ある日40億



読書の秋、秋の夜長にお勧めする一冊です。
タイトルがそのままなので、例によってつい「アマゾン衝動買い」
読み始めたらとまらなくなって、深夜に一気読みしてしまいました。


これは本当に面白い!
借金にあえぐ中小企業者にぜひ読んでいただきたい本です。


主人公は湯澤剛氏。
昭和37年(1962年)生まれなので私より2つ年下。


早稲田法学部出身ですから私の後輩ですね。
先輩面するつもりはまったくないのですが、
私よりはるかに優秀な方ですね。
高校時代に1年間の交換留学経験ありで英語は堪能。
大学時代は一時司法試験を目指したほど。
就職先はキリンビール。もちろん早稲田の中では人気企業。
成績優秀でなければ絶対に入れないところ。


キリンビールではニューヨーク勤務も経験。
結婚もして、順風満帆の会社人生だったのが、
36歳の時に飲食店チェーンを経営する父親が急死。


それで突如キリンビールを退職し、社長に。
その会社の借金が40億円!!


何だかドラマのようですね。
しかし、湯澤氏はビール会社に勤めていたものの、
飲食業はまさにド素人。
経営も未経験どころか、大企業だからこそ部下も扱ったことがない。


急に会社に銀行員が乗り込んできて


「どんなことしてでも金返せ!」


もうすぐ思いだしましたね。
まさに「半沢直樹」!!


あの世界です。まさにリアル半沢直樹。
本当にこんなことがあるのです。



池井戸潤さんが脚本書いてすぐドラマ化できますね。
映画にしても大ヒット間違いなしでしょう・・・。






その2 なぜ40億円もの借金か



まず借金まみれになった会社のご説明から。
株式会社湯佐和。こちら
設立は昭和53年(1978年)。
でもその株式会社湯佐和はもともと創業者である父親が
昭和35年(1960年)大船で中華料理店を始めたことにさかのぼります。


著者が生まれる2年ほど前です。
でもこの先代は非常に才覚ある方だったようです。
たった一店舗の中華料理店からスタートして、
一代で33店舗もの居酒屋グループを築き上げたのですね。


地元では超有名人。立志伝中の方だったようです。
引き継いだときの状況は、主力の海鮮居酒屋のほか、
牛丼の吉野家のフランチャイズ店、洋風居酒屋、回転寿司、
カラオケ、サウナ、雀荘など、なんでもありの33店舗!
その当時の年商は20億円。


ここでまず「税理士らしい」突っ込み。


いくら快進撃していた居酒屋グループでも年商の倍の40億円は
「借りすぎ」ですよね。
よくそんな貸したなと思いませんか?


地元信用金庫から28億円!!メガバンクから12億円!!
私はこれ読んですぐピンときましたが、
「バブルの被害者」
なのでしょうね。
まさに半沢直樹の世界。
きっと、貸しまくったのは「東京中央銀行」なのでしょう!?
メガバンクとはたぶん「あそこ」でしょうね。


キャッシュフローで(つまり売上規模で)金を貸す時代になったは、
バブル崩壊後から。
土地神話を前提とした担保主義で何でも貸しまくったからこそ、
バブルは崩壊したのですね。
キャッシュフロー主義は、新たに設立された金融庁の指導からでしたね。


先代は余程不動産がお好きだったのでしょう。
金融機関がどんどん貸して、テナントビルを買いまくって
いたのでしょう。
だからこそのグループ展開。
FCがあったりサウナや雀荘まで少しおかしかったのでしょう。
40億円の負債だと1ヶ月の返済額は3160万円!
まったく「ニッチもサッチもいかない」状況。


そんな状況で突然の「ド素人の」社長交代。
これは事業承継のリアル物語として大変興味深く読みました・・・。





その3 今だったら間違いなく民事再生



先代が69歳で急死されたのは平成11年(1999年)。
時代背景が分かりますか?
民事再生法が施行されたのが翌年、平成12年(2000年)。
バブルの後処理を国全体でしようと躍起になっていた頃です。


もう少し先代が生き延びていたら、法律によって
再生ができたかもしれないのですね。



でもこの湯澤社長は、名門企業を退職してまで、逃げずに社長を引き継ぎます。
偉いですね。
今だったら、社長を引き継がず法律的に処理できそうですから。


どうやら先代は典型的なワンマン経営者だったらしく、社内に幹部はいません。
本当は先代は息子に早くから会社を任せたかったのだと思います。
そんなくだりがあって、思わず泣けてしまいます。
だからこそ、逃げなかった理由は、きっと「オヤジの思い」を果たしたかったのかと
思います・・・。


しかし、バブル崩壊後の後始末、これがいかに大変であったか。
40億円の負債のうちほとんどが不動産所有のための借金です。
間違いなく、メガバンクが貸し込んだのでしょうね。
半沢直樹にでてきそうな「悪い銀行マン」が自分の成績のために・・・。



「所有不動産を叩き売れば15億円になり、借金も25億円に減らせる・・・」


そういう思惑が最初はあったようですが、実際は不動産価格の大暴落。


「11億円の簿価の物件を1.3億円、9億円の簿価を8000万、
4.5億円の簿価を5000万円」



まさにバナナのたたき売り状態。
メガバンクとケンカしながら借金を返していきます。


どん底のさらに底・・・。


ここで税理士らしい突っ込み。
「顧問税理士はいったい何やっていたんだ!」


でもこう書いてありました。

「ほとんど税務申告の捺印のみの付き合い。何も知らない・・・」

ここは正直腹立ちました・・・。







その4 崩壊していた会社


売上20億円もありながら、資金繰りに追われる赤字企業。
借入金40億円以外にも、滞納している支払いが全部で1億円以上。
国税、地方税、仕入れ代金、水道光熱費、家賃・・・。
すごいですね。


なまめかしく国税局とのやり取りがでていました。
知っておいていただきたいのですが、
今や国税庁の取り立ては強烈です。


そのあたりのサラ金の取り立て以上です!(内緒)


でもそれよりも何より、銀行との交渉がまず最優先。
すべての神経を集中させてそれに取り組みます。
このあたりのやり取りは非常に参考になりますよ。


(あまりこんなやり取りをしていただくことはないとは思いますが・・・)

 

金融機関はじめ社外との戦いに明け暮れる毎日。
一方で社内との壮絶な戦い。

もはや会社の体を成していなかったようです。
33店舗もありながら、実質の店長が2人だけ・・・。
先代が超ワンマンだったのは認めますが、
いったいどんな会社だったのでしょう。


どう考えてもおかしいですよね。


お店に回ってみると、
勝手に店を閉めていた・・・。
営業中板前が4人でマージャンしていた・・。
仕事しないで客と一緒に酒を飲んでいた・・・。


これ見つけたら、社長として絶対怒鳴りたくもなりますよね。
でも怒鳴れません。
何故なら社員に辞められたら、翌日から「日銭」が入らなくなる・・・。
これはやってられませんね。


この頃の社長の最大のストレスは、


「借金問題よりもむしろ、モラルに欠ける社員の問題行動を
強く注意できないことだった・・・」


壮絶な葛藤ですね。すごいです・・・。







その5 ついに自殺未遂まで・・・



会社を引き継いで約1年間は地獄の日々。
読んでいて泣けてしまいます。


国税局との厳しい交渉の帰り道、地下鉄に乗ろうとしたとき、
本当に飛び込んでしまおうと思ったことがあったそうです・・・。


また自宅にまで借金のしつこい督促。
乳飲み子を抱える奥さんが、なくじゃくる子供のそばで
平身低頭して電話で謝っている姿を見て愕然としてしまいます。


「自分の人生、家族の人生が壊れていくような画が見えるような
気がした・・・」


地下鉄飛込み未遂事件とこの奥さんの姿を見て
彼はハッと気が付いたのです。


「心の最後の一片まで恐怖に支配され尽くすと、
不思議と心が静まっていく感じがした・・・」


ここは何度も読み返してしまいました。

 

それで湯澤社長はどうしたのでしょうか。
開き直って「破産計画」を立案したのです。
もちろん、単に弁護士に依頼して破産を実行するのではなく、
期限を決めてこの期間だけ死に物狂いでやってみようと。


その期限は5年。
なぜ5年かは書いてなかったのですが、


「その5年間は、たとえ借金が減らなくても気にしない。
5年間は会社継続することだけに専念する。
5年たって状況が変わらなければ会社清算する・・・。」


本当に腹くくったのですね。
1827日分日のひめくりカレンダーを手作りで作ったそうです。

 


Photo

(実物です)


布団に入る前に
「ああ、今日一日終わった、あと1800日だ・・・」
そう思うと心が軽くなったそうです。


そごいですね。これ一度作ってみませんか・・・。







その6 成功店で突破口



自殺未遂までした、この最悪の状態からどうやって脱したのか。
ここに非常に興味がありました。
16年間で40億円の借金を返せたのですから、
40億円のカネを生み出せたのです。
すごいですね。居酒屋チェーンってそんなに儲かるものなのでしょうか。


社長は、八方ふさがりの状況を脱するために、
「一点突破・全面展開」
の作戦に出ます。


つまり、「成功モデル店」を作りにいったのです。
横浜にある居酒屋「戸塚店」を選びました。
これを「開運居酒屋 七福」
と名前を変えます。


やる気のありそうな店長を入れ、
「どうやったら売上あがるか。」と毎日ミーティング。


客層を広げるために、

「まぐろとアボカドのミルフィーユ仕立て」とか
「鎌倉野菜の彩りサラダ」など・・・。


でも一向に売上あがりません。最初はものの見事に失敗。
今成功したからこそ言えるものの、これに失敗したら
本当に破産だったのでしょう・・・。


湯澤社長は必死の思いで、店から出た客のあとについていき
聞き耳をたてます。


「全然だめ・・・」

「いろいろやろうとしているけど何かが違う・・・」


お客さんの言葉から、ようやく気が付きます。

「ターゲットが違う・・・。」


そうなのですね。
あらゆる層を狙ったのが失敗だったのです。
ここで中高年男性客に的を絞ります。


メニューも変え、

「マグロぶつ」、「だし巻き玉子」、「もつ煮込み」


如何にもオヤジの好きそうなメニュー。
これで最悪を脱していきます・・・。






その7 飲食業は人がすべて


10年ほど前、確かに「個室居酒屋」や「OLをターゲットにしたミーハーな居酒屋」
が流行ったことがありました。
でも「オヤジ」をターゲットにしたポジショニングの修正で
湯佐和は変わったのですね。


もう一つ社長は変えていきました。
ここは参考になりますよ。
「人」です。


「飲食業は人が利益を生み出す」


これはよく言われることです。
接客によって売上が変わるということです。
営業時間中に麻雀をやっているようなお店なんて誰も行きたくないですからね。


しかし、最初書いたように、この社長はマネージメントしたことはない・・・。
それどどうしたかというと、最初から組織を作ろうとしなかった。
社員が当時70名もいたらしいのですが、「1対1の関係」を作ったのです。


「自分を金八先生だと思うようにした。」


これ分かりますか。
金八先生とは、ご存知の通り武田鉄矢主演のテレビドラマですよね。
毎回毎回、生徒が引き起こす問題を一人ひとりと向き合うことに
よって解決していきますよね。
まさにコレです。
社員一人ひとりと向き合ったというのです。


そのために社員一人ひとりの情報ファイルまで作ったというのです。


さらに幹部社員7名とは「交換日記」まで作って日々の進捗状況を
把握していく・・・。



ここまでする社長さんはなかなかいないです。
でも、社長というのはこれくらい大変なのですね・・・。





その8 店長で変わる



「人」を変えることによって、2003年までに借入金は30億円に
返済していきました。
年間2億円もの返済ですね。すごいですね。
どん底からどうやって返していったのか、これは非常に興味があり
何度も読み返しました。


「飲食業は People‘s  business である」


やはりここです。何度も言いますが「人」です。
同じ看板メニューであっても、店長やスタッフなどの“人”によって
業績が変動するのです。


ずばり「店長」なんだそうです。
コストコントロールできる店長を配置することによって、
人件費、原価、水道光熱費が減少しました。


まったくダメな店長なら利益ゼロだった店が店長を変えることによって
月間200万の利益!年間なら2400万も利益を出すこともできると。


こういう店が10店舗でもいいからできたとしたら、
確かに年間2億円くらいの借金は返せますからね。


「そんないい店長がどこにいるんだ!」
絶対そう突っ込まれそうですね。


人の問題は商売柄毎日のように相談を受けることです。
「どこかにいい人いませんか?」
顧問税理士として何百回、何千回と聞かれたことでしょうか・・・。



ハッキリと書いていなかったのですが


「採用手段を変えたことによるものだ」


きっと人材紹介会社に大金はたいても、できる店長を
他から引っこ抜くことくらいのことはしたのでしょうね。


他でダメな店長は、どこに行ってもダメですから・・・。







その9 狂牛病・ノロウィルス・火災・・・


人生のどん底を味わって7年の2006年4月。
メガバンクからの借入金12億を返すことができます。


返済し終わった晩に夫婦で久しぶりのワインを飲みます。
何だかここ読むと泣けてきます。
半沢直樹に出てきそうな「悪代官」と闘ったのでしょうね・・・。


でもまだ20億円もの借金。
さらにここで追い打ち。


狂牛病発生でまたも資金繰り地獄。
このチェーンは吉野家のフランチャイズもやっていましたから。
さらにノロウイルスで新聞沙汰。店舗の火災。
これだけ波乱万丈な社長さんはいないです。
本当にドラマのような人生。


ついに、社長は諦めかけます。
つまり事業をやめる決意をしたのですね。
当時、M&Aが盛んでした。
居酒屋グループを購入したい買い手はいくらでもいたのでしょう。
売ってしまえばこの苦しみから解放されるのです。
倒産しなくてよくなるのですから・・・。


でも思ってもみなかった、従業員からの大反対。


「自分たちも頑張ります。逃げないで頑張りますから。」


ここできっと湯佐和は変革したのでしょうね。
社長こそ従業員から諭されたのですから・・・







その10 本当になんとかなる


 

Irohalogo_top_3


Shitifuku_top_2


Umifuku_top_2

 

 

 


熱く語ってきた湯佐和シリーズ。
そろそろまとめましょうか。


たかだか200ページくらいの本なのですが、
何度も読み返しました。
借金40億円も背負う方の言葉をなかなか聞けませんよ。
本当は自己破産してどこかにいなくなってしまっていたはずの方です。(失礼!)


でもどっこい生き延びた・・・・。
こんな地獄の苦しみを経験されたお方のを生の言葉かみしめました。
借金をたかだか数億で苦しんでいる方をどれだけ見てきたか・・・(これも大変失礼!)

 

 

2009年の借入残は15億円。まだまだ結構ありますね。
でも毎年1億5000万円は返していく計画は立てられたのです。


そうすると、このままいけば4年間で6億円返して残り9億円。
でも銀行のために生きていくことをやめたのですね。
まさにここで「半澤直樹の出番」なのでしょう。
返済スピードをわざと落とします。
設備や人材育成に年間5000万円も投資することを決意します。



ここがこの社長の偉いところ。一番感動しました。


何のための会社かを気がついたのです。
会社は借金を返すためのものではないのですね。


京セラの稲盛さんがよくいうセリフと同じです。


「全社員の物心両面の幸福の追求」



そうなった瞬間社員の心に火が付いたのですね。
2015年5月の借入残なんと1億5000万円!!
逆に返済スピードがアップした!!
つまり、社員に投資した瞬間に年間2億円以上も返済可能になったのです。
これでほぼ借金を返し終わったのです・・・。

 

こんな会社世の中にあるのです。驚きました。


「People‘s  buiness」


これは飲食業に限らない言葉です。
湯澤社長に教えていただきました。
ありがとうございました。



(がんばれ! 借金がなんだ!シリーズ おしまい)

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