その1 令和新時代に向けてぜひ読んでおきたい本



勝算

久し振りの書評ですね。
いろいろと読んでいたのでご紹介したかったのですが
東京マラソンとその寄付金控除で熱くなりすぎていましたから・・・。

しかし、新元号が発表されてから
「平成とはどんな時代だったのだろう」
「令和とはどんな時代になるだろう」
そういうことばかりですね。

そういう意味でこれからの時代を考えるには絶好の書でしょう。
作者はデービット・アトキンソン氏。
日本在住30年の1965年生まれのイギリス人。
オックスフォード大学を出て1992年にゴールドマンサックスに入社。
1992年というと平成4年。まさにバブルのピークでしたね。
懐かしいですが私が野村證券を退職した年でもあります・・・。
金融調査室長として、日本の不良債権の実態を暴くレポートを書き
注目を集めた人なんだそうです。

「バブル崩壊の引き金を引いた人」というと言い過ぎでしょうか。

 

豊富な資料と明快な論調で実に分かりやすいです。

例えば今年10月に消費税が8%から10%に引き上げられますね。
著者に言わせたら、
「消費税引き上げなど小手先の微調整の典型」
とばっさり。
「消費税の引き上げに関して、『社会保障の負担が重く、税収を増やさなければ
いけない。そのためには税率を上げる必要がある』という説明がされているが、
この理屈は固定概念に囚われた、非常に次元の低い理屈・・・」
と非常にキビいしいのですね。

つい税理士として「消費税が引き上げられたらどうなるか・・・」
何て考えてしまうのですが、そんな「つまらないこと」を考えていたら
時代を見失うのですね。
何度も読み返すとこれからの「令和」という時代が見えてくるような
気がしてきます。

日本は間違いなく大きな「パラダイムシフト」が起こっているのです。
そのパラダイムシフトの原因は二つ、
「人口減少」

「高齢化」
なのですね。

令和の時代は、人類史上いまだかつてない急激なスピードで
人口減少と高齢化が進んでくるというのです。

いったいどうなるのだろう?
そのための「勝算」はどこにあるのだろう?

ではその「日本人の勝算」をどうやってみつけていくのかという点ですが、
実に興味深い書き方をしています。
海外のエコノミストの論文を徹底的に研究したというのです。
最終的には118人の外国人エコノミストの論文を
まとめ上げたそうです。


ではその勝算をご紹介していきましょう・・・。





その2 最悪のシナリオを知っておこう

 

Photo_13

 

ではまず筆者が言う「最悪のシナリオ」からみてみましょう。
「人口減少」と「高齢化」についてはこのブログでも
何度か取り上げたので、多少の知識はあったつもりです。

でもこの表をみたとたん、唖然としました。
「日本を世界から見るというのはこういうことか」・・・・
本当に思ったからです。

日本の人口減少の予想ですね。
2016年1億2,774万人から
44年後の2060年にはわずか8,673万7000人と
何と32.1%も減少されていると予想されているのです。
国連のデータに基づくそうですから信憑性は高いですね。

 

でも下欄の世界全体ではどうでしょう。
44年後に世界全体では36.1%も増加しているのですね。
先進国であるG7ではどうでしょうか?
7%増加です。
日本を除いたものが14.9%ですから、世界先進国で
日本だけが明らかな圧倒的な「落ちこぼれ」なのです。

因みにアメリカは一番上の25.2%の増加です。
まず筆者の大事な問題提起です。
「日本は少子高齢化と人口減少問題を同時に考えなければならない
唯一の先進国」であるという自覚を持つということ・・・。

最悪のシナリオとは、これから始まる
まさに「デフレ・スパイラル」なのです。

人口減少はそれだけで「強烈なデフレ要因」です。
少子高齢化は人口減少によるデフレに拍車をかけ、
さらにデフレを深刻化させるというのです。

例えば、よく問われる命題として、
「東京オリンピック後に不動産価格はどうなるのか?」
というのがありますね。

人口が増え需要が増えると不動産価格は上がりやすくなりますが、
新しいマンションや住宅が供給されるとインフレ圧力は
緩和されるのですね。
それでも不動産ストックはなかなか減らないので、
人口減少が始まると不動産価格が下がり物価に与える影響が
増大されていくのです・・・。
恐ろしいですね。

ですから、もしこのまま何も対策を打たなければ、
不動産部門から強烈なデフレ圧力を受けることは必至なのです・・・。

もちろん、不動産部門だけではないのです。
人口減少によって影響を受ける業者は、
学校、美容室、食料品、車、住宅など、
人間の数に依存するモノとサービスの需要は
間違いなく減るのです。

そうなるとどうなるのでしょうか?
需要が減った分は供給も減らさなければならないので
少ない市場での、企業間の生き残り競争に拍車がかかります。

10社の企業を支えた需要が8社しか支えられなければ
生き残る8社に何としてもらなけければならないからなのです。

生き残り競争の恐ろしい経済用語が出ていました。


「生き残りのためのもっとも安易な戦略は、
価格を下げて他の企業の体力を奪い、倒産に追い込むこと」

最後まで勝ち残った企業は、競争相手がいなくなって
大きな利益を得ることができます。
これこそ恐ろしい単語
「Last man standing利益」・・・・・






その3 政治家の忖度が一番危険

 

40年後の日本は人口が3割も減り、デフレ・スパイラルで
企業間生き残り競争で日本の産業は崩壊する・・・。
そんな最悪なシナリオで驚かせてしまいましたね。

でもその当事者である日本で、そんな問題に真面目に取り組んでいる
研究者やエコノミストはあまりいないそうです。
世界的に見てみれば、日本のように高齢化と人口減少問題の「ダブル・パンチ」を
受けている国はないのですから、その研究をしてる学者も
エコノミストも世界には存在しないのは、想像つくはずです。

その当事者である日本自体に、そういう専門の研究者がいないことを
筆者は危惧しています。


例えば安倍内閣が、デフレ脱却を掲げアベノミクスを行いましたね。
その秘策としての大規模な金融緩和「黒田バツーカ」は
2%のインフレ目標が設定されていました。
でも5年経った今その目標値に達成していないのはなぜでしょう。

「インフレ率は金融政策だけでは決まらないというのが、
最近の経済学のトレンドになっているのは確かです。」

「日本の学者と民間エコノミストの多くは
考え方が古い。相変わらず人口は関係ないと言い張っている。」

実に手厳しいですね。

 

それと一方、政治家の方はどうかというと?
目先のことしか考えていないからなのです。

分かりやすく言うと、選挙演説の際に
「将来の子供たちのために政策でインフレに誘導します」
と演説するのと、
「豊かに老後を暮らすために物価を下げてデフレを維持します。」
と演説するのでは、選挙にどう効果があるかということなのですね。

政治家はあまねく「物価を下げます」というのです。
これについては、以前落合陽一氏の「日本進化論」で学びましたね。
こちら 

これを
「シルバー民主主義」
というのでしたね。
有権者はほとんどが65歳以上の高齢者となった現在、
年金暮らしの方がより暮らしやすい政策を分かりやすく言った方が
当選しやすいからなのですね。
そういう政治家は、今生まれた赤ん坊の30年後、40年後は
考えていないのです。
次の総選挙に勝ちさえよいからなのですね。

先日有権者にうけを狙って「忖度をした・・・」などと発言した政治家と
一緒です。

どこを見て政治をしているかということなのです。

 

実は落合氏と著者はまったく同じことを言っています。

「65歳以上の高齢者は資産は持っていますが、収入は少ないので
デフレを好む傾向があります。」

「65歳以上の人口構成が上がるとインフレにつながる
政策を嫌がり、その政策を進めようとする政治家は選挙で
当選しにくくなるはずです。」

困りましたね。日本の未来はそんなに暗いのでしょうか。
本当に勝算はあるのでしょうか・・・・。





その4 平成は「失われた30年」


人口減少と少子高齢化の世の中を語る前に、
「失われた30年」のをご紹介しましょう。
これは、ちょっと難しいのですが、なかなか参考になるお話です。
勉強になりました。

海外の学者が日本経済を研究したものらしいです。

それによると、今の日本の経営戦略を英語で
「Low road capitalism」(ロウロード キャピタリズム)
訳すとすると、
「低付加価値・低所得資本主義」

難しいですね。なんだか分かりませんね。
この反対語をご紹介すると何となく分かるでしょうか。
「High road capitalism」(ハイロード キャピタリズム)
訳すとすると、
「高付加価値・高所得資本主義」

バブル崩壊後の「失われた30年」はなぜ「Low road capitalism」で
あったかを分かりやすく説明してみましょう。

今までの日本の経営戦略では、
「いいものをより安く」が良いとされてきました。
例えばここ20年間で、ユニクロやニトリなどに象徴される企業が
発展してきましたね。
「常に効率を求め、とにかくコスト削減にまい進し、
特に人件費を下げる。」
多くの経営者はそれだけを考えてきたのです。

でもこの経営戦略は、人口が増加している時代にはよい戦略だったのです。
つまり、いいものを安くすると新しい需要がどんどん生まれるので
単価は下がるのですがそれ以上に売上が上がったのです。

これをキビいしい言い方で筆者は表現しています。

「優秀な労働者がいればどんなバカな経営者でも可能な戦略」
だったのです・・・。

「Low road capitalism」を別の表現で言うと
「簡単、安易、楽をしたい、サボっている、ごまかしている」
といニュアンスなんだそうです。

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でも労働者にとってはたまったものではありませんね。
表にするとこうなります。

バブル崩壊した日本経済は
給料を下げることによって企業は利益を上げていたのです。
なかなかショッキングな表ですね・・・・。

如何に経営者がサボっていたか・・・

ここ分かりますか・・・・。







その5 令和は「価値の競争」へ

 

「Low road capitalism」(ロウロード キャピタリズム)
難しいですか?
これを勉強すると
「令和の時代をどうビジネス展開していったらよいのか」
分かるような気がしてきます。

日本は1995年をピークに生産年齢人口が下降してきているのです。
それに気が付かない経営者は、人口増加している時代のビジネスモデル
「いいものをより安く」
に拘ってきてからこそ、日本経済は疲弊してしまったということになるのです。
今後も人口が減り続ける時代では、このビジネスモデルでは
通用しないとご理解いただけるでしょうか。

 

ところでこの用語は筆者が言っているのではなく、
アメリカの有名な社会学の教授、エリック・オリン・ライト氏が
提唱しているということです。

「Low road capitalism」(ロウロード キャピタリズム)
の経営戦略の根本的な哲学は「価格の競争」なのです。
それを日本企業が突き詰めてきたからこそ、給料が下がってしまったのです。

それに対して、対極する考えの
「High road capitalism」(ハイロード キャピタリズム)

は「価値の競争」です。
今まで安易に安い労働力を使って利益を上げていた経営者は
困りますね。
経営者自身が努力することはもちろんなのですが、
高いスキルを持った労働者が必要だというのです。
労働者は、いくつもの種類の仕事(マルチスキル)をこなせる上に
高いレベルのスキルなのです。

 

例えば
「コンピュータのソフトウエアを使いこなすといったスキルでなく、
マーケティング能力や、調査・分析能力、問題解決力や
人を説得する能力。
仕事をこなすというのでなく、仕事を改善する能力。
組織の論理に追従するのではなく組織を変える能力。


説明すればするほど、かなりハードルは高そうですね。

「High road capitalism」(ハイロード キャピタリズム)
に向けて意識改革が必要だというのです。
しかも、生涯学習を通じて常にスキルアップすることも
求められます。

 

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表にするとこうです。
令和の時代は大変なことになりそうですね・・・・。






その6 最低賃金の引き上げが必須条件



「High road capitalism」(ハイロード キャピタリズム)
これを実践しようとすると「平成の」経営者から怒られるのでしょうね。

賃金を下げることによって、利益を上げていた「平成の経営者」
でしたから・・・。

2310f_20190409_0905442

図にするとこうです。
令和の時代の経営戦略です。
ポイントは「給料を上げる」ことなのです。
前提として「生産性を上げる」ことが必要なのです。
現在の経営者の意識改革も必要ですし、
そのための政策も必要だとしています。

ここで筆者が一番言っていることは
「最低賃金を引き上げること」

Photo_14

日本は諸外国に比べ、最低賃金が極端に少なすぎるそうです。

東京では最低時給985円ですね。
これを政策的に引き上げるのです。


因みにイギリスは最低賃金が政策的に引き上げられたことで

経済が復活したそうです。

日本での最低賃金の引き上げは、産業界から猛反発を受けるのは
あらかじめ予想してのことです。

ご説明したように「賃金を引き下げることにより利益を出してきた
平成のビジネスモデルを根底から覆すからです。

強烈な皮肉が書いてありました。

「今まで恵まれてきた社長は、経団連に顔をだしたり、ロータリーに出たり、
業界団体に行ったり、客先回って今まで通り、世間話をするでしょう。
でも何もしなければ生産性は一向に上がりません・・・」

最低賃金を引き上げることは、経営者自身が困ることになるのでしょう。
でも令和という時代は、ビジネス界においては
そんな甘い時代ではなさそうです。

 

最低賃金を引き上げることで、独立開業などは
間違いなく減るのでしょう。
それどころか生産性の低い、特に中小企業では合併など淘汰が進めるべきとまで
考えているようです。
合併により企業規模を大きくすることにより、適正な給料を
払っていくしかないそうです。

 

日本はそういう方向に舵をとるしか、日本の未来はないとまで
書いてあります。
各経営者が生き残りのために、生産性を上げるよう知恵を絞っていくしか
ないのでしょう。


令和の時代は、業界団体のゴルフ大会で、スコアを自慢するだけが
社長さんの仕事ではなくなりそうです・・・。






その7 昭和時代の考え方は通用しない


そろそろ中小企業の社長さんたちから、怒られそうなので
まとめましょう。

 

令和の時代は、中小企業経営者にとって、昭和、平成の
「安穏とした」時代にはとてもなりそうにありませんね。

日本の生産性はどうしてこんなに落ち込んでしまったのでしょうか。

「1990年代の日本とアメリカの企業行動の違いを考えると合点がいく」
そうです。

「アメリカでは多くの企業が技術革新の効果を最大限引き出すために、
組織を大幅に刷新し、仕事のやり方を大胆に変えた」のに対して、

「日本では技術導入したものの、組織や仕事の仕方に
手を付ける企業が少なかった」からなのです。

 

1989年が平成元年ですね。
ということは、分かりやすく勝手な解釈すると、

「平成という時代は、経営者たちが時代が変わっていることに
気が付かずに、昭和のやり方を踏襲し続けてしまったから」

生産性が落ち、「失われた30年」となったと言えるのでは
ないでしょうか。

令和の時代は、この過ちを繰り返してはならないのですね。
そのためには、筆者は思い切って
「最低賃金を上げ、給料を増やすよう」努力しなさいと
いっています。

でもこれだけでも、今の中小企業経営者から反発を受けますね。

「人手不足で人材が集まらないのに賃上げとは何事だ!」と・・・。

でもご説明したように、今後は高度な付加価値をしなければ
生産性は上がらないのです。
単純作業は、それこそAIに取って代われるはずだからなのです。
政治主導で何かの強制力が働かないと変わるはずないのですね。

 

令和新時代の経営者の方は大変ですね。
そのためにも、「経営者の再教育」は必要だと筆者いっています。

さらには高度な仕事をし続けるためにも、従業員に対する教育も
必要だと・・・。

いろいろ賛否両論がおきそうな意見だと正直思います。
でもこの本でいろいろと勉強しましたね。

世界では日本的経営をこのように見ているのかと
気づくことができました。
新たな発見ですね。こういう別の角度から日本経済、
日本的経営を考えることも必要なのですね。

 

今度の「史上初の10連休」には、ぜひとも海外旅行にでも行って、
諸外国から日本という小さな島国をながめることも
有益なのでしょう・・・・。



(がんばれ! 令和新時代の経営者たちシリーズ 
  おしまい)








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