
先月は資本金たった5万円のスタートアップ企業
のお話でしたね。
今月もスタートアップ企業をまたご紹介しましょう。
ただITバブルで一気に開花してしまった会社なので
ちょっと違う種類でしょう。
まず今回の主人公は
株式会社アイスタイルという会社の
創業者である吉松徹郎氏。
アットコスメ(@cosme)という日本最大の
コスメ・化粧品の口コミサイトを作った会社の
代表取締役会長CEO。
ただ最初から申し上げておきますが、
コスメ・化粧品というと私にはまったく門外漢のお話。
まあたまにはこういう種類の会社を勉強するのには
よかったかなと思います。
事実、自分の不得意分野に関して結構勉強になりました。
いろんな種類のスタートアップがあるのだと
本当に関心しました・・・。
題名が実に面白いですね。「つぶれない話」
なんとなく昔流行ったテレビ番組の
「すべらない話」をパクったような題名ですね。
事実「つぶれそうでつぶれない会社」というような
書き方で始まります。
口コミサイトから出発した会社ですから
まさにIT企業だったのです。
当然店舗を持たない通販主体の会社だったのですが
途中から方針展開して、「リアル店舗」を積極的に
展開していきます。
国内にリアル店舗(@cosumeSTORE)を24店舗。
海外にもリアル店舗を8店舗。
海外売上高が全体の25%(93億円)までに
達していたのです。
さらに巨大フラッグシップ@cosumeTOKYO
をなんと!原宿の一等地に開業したのが
2020年1月。
ちょうどコロナのお話が出始めたことでしたね。
そこでもろにコロナ禍の直撃を受けます。
2020年年末にキャッシュフローが
20億円ほど足りなくなります。
まさに「コロナ倒産」が現実化してきたのでした・・・。
その2 EDINET分析から
(株式会社アイスタイル 経営指標 2018年6月期〜2020年6月期)
会社の創業からお話はあとからにして
とりあえず「つぶれない話」
株式会社アイスタイルは上場企業ですからね。
とりあえず得意のEDINET分析から。
まずコロナ前の業績です。
第20期である2019年6月期
売上は320億円ながら経常利益は
3億8000万円
上場企業としては
「たいしたことない」
ですね。(失礼!)
純資産は100億円で総資産が220億円だから
借金(つまり負債)は120億円あるということですね。
事実、銀行借り入れは80億円もあったということです。
この状況で出店攻勢。
極め付きは巨大フラッグシップ@cosumeTOKYO。
巨額の投資ですね。
(株式会社アイスタイル 経営指標 2020年6月期〜2024年6月期)
2020年6月期に24億円もの損失。
一気に財務内容は悪くなっていますね。
見てすぐわかります。
純資産が107億円 → 54億円と半減。
年末までに20億円も資金が必要だったのが
結局「くふうカンパニー」の創業者
(カカックコム・クックパッドの創業者)
に頼み込んで切り抜けていたのですね。
コロナの期間どうだったかというと
2期連続の赤字です。
会社は本当に厳しかったのでしょう。
それでamazonと三井物産との提携話。
amazonとは「100%買収が基本」。
それもそうでしょうね。
世界のGAFAMの一角ですからね。
資金力はいくらでもあります。
決算数字見ましたよね。
純資産50億円ほどの赤字会社です。
営業権をどれくらい評価するかなのですが
資本提携などカッタルイことは
言っていられないのでしょう。
でもAmazonの担当者にこう言ったところが
カッコイイ。
日本初でしょう。
「Amazonさんが本気で腹をくくってくれたら
僕は考えます。100%買収では乗れないのです。
あくまでヤフーとZOZOの経営統合のような
対等な形を望みます」
すごいですね。
天下のAmazonに「対等に・・・」
といった初の経営者でしょう。
もちろん前例はなかったのですから・・・。
その3 amazonと三井物産との提携
(山田メユミ氏)
Amazonと三井物産が出資することによって
「つぶれなかった」@cosume。
裏を返せば資本提携がなかったら
つぶれていたということになりますね。
なかなかここまで書いてある本はないですね。
そこが面白い。
@cosumeの誕生秘話から物語は始まります。
吉松徹郎氏が東京理科大学基礎工学部の同級生
であった山田メユミ氏と一緒に立ち上げた会社です。
山田メユミ氏は大卒後、化粧品の商品開発部で
働きます。
そこで化粧品の情報を「まぐまぐ!」で発信。
その「週刊コスメ通信」が大当たりしたのですね。
当時はインターネット黎明期。
実は私もその「まぐまぐ!」というのは覚えていますね。
二人はまだ27歳の時。
吉松徹郎氏は大卒後就職浪人を経て
アクセンチュアに入社。
その後1999年5月に退職し起業一本に賭けます。
二人は結婚準備もしていたのですね。
当時は会社起業するには資本金の規制が
あったのです。
最低でも有限会社で300万円。
私も1998年起業ですからそこはよく
覚えています。
新婚旅行にもいかず、その資金で
1999年7月有限会社アイスタイルが誕生。
東京表参道の交差点の近くにある雑居ビル。
「有線LANケーブルを通してパソコンに
つないだ・・・」
何だか懐かしいですね。
私も有線LANケーブルをつないだパソコンと
毎日にらめっこしていましたからね。
「僕は『初めてのHTML』といった参考書を
片手に、見よう見まねでサイトを作り始め、
少しずつ形にしていく」
インターネット黎明期はどうであったか。
思いだされますね。
「昼間は閑散としているオフィスに、夕方くらいから
人は集まり、小さなオフィスは仲間でひしめき、
熱気にあふれていた。
みんな終電ギリギリまで仕事をしては
駆け足で帰っていく。」
毎日が文化祭の前日のような日々・・・。
1999年12月、ついに@cosumeがオープン。
その4 ITバブル
1999年12月に@cosumeがオープン。
2000年には資本金300万円の会社に
3000万円の出資が決定。
まさにITバブルなんですね。
当時の状況がなまめかしく書いてありました。
「吉松さん、うちなら2週間後に
1億円出せますよ!」
飛び込み営業のVCが来たそうですから。
でもこんなおかしな景気は長く続かないのですね。
光通信の携帯電話の不正報道をきっかけに
ネットバブル崩壊。
6月末が初の決算。
売上高95億円。
4200万円の赤字。
社員の給料を半額しか払えない・・・。
「大袈裟ではなく、当時日本にあったVCは
すべて回りつくしたと思う」
本当でしょうね。
「吉松くん、君がそんなに真剣なら
本気を見せてほしいな。
だって君、僕の家の玄関の前で
土下座したことなかったよね。
〇〇社の彼は朝、家の玄関開けたら
正座していたよ」
金融機関の得意技ですね。
「必殺 手のひら返し」
しかし、どこのVCでしょうね。
社名を公開してほしかったですね・・・。
心が折れそうになった。
この本で一番面白かったところ。
万策尽きてほんとんど諦めかけていた頃、
山田氏と二人で九州へ向かいます。
ある資産家に会うため。
「これで最後になるかもしれないな」
と覚悟は決めていたそうです。
「国内外で教育関係の事業などを幅広く手掛ける
知る人ぞ知る経営者」
なんだかこのやり取りは本当に神秘的です。
最後にこの方から1億円の小切手をもらう・・・。
こんなことがあるのですね・・・。
この方がいなかったら
@cosumeは消滅していたのでしょう。
アットコスメの本当につぶれない話。
その5 メンバーが20人を超えると・・・
一人のエンジェル投資家によって救われた
アットコスメでしたが、カネの苦労話は
何度も出てきます。
ベンチャー企業のリアルの苦労を学べますね。
そもそも吉松氏と山田氏の二人のご夫婦で始めた会社。
私も税理士として夫婦で開業したご商売を
たくさんみてきました。
二人で力を合わせて会社を成長させたたケースと
逆に難しくさせたケース。
仕事場でも家庭の場でも一緒ですからね。
ぶつかり合うことも多くなりますから。
結婚資金を流用してまで起業したこの会社では
なおさらのことでしょう・・・。
「事業が大きくなるにつれて、
山田と僕は仕事以外の悩みを
打ち明けるような間柄ではなくなっていた。」
「互いの人生にとって、幸せなことや
ありたい姿が食い違ってきた。」
「2004年、僕と山田は別居した。」
起業してちょうど5年目くらいですね。
なかなか資金繰りがうまくいかず
経営的にも大変だったことでしょう。
読んでいて切なくなりました・・・。
たった二人で始めたビジネスですが
創業のメンバーだけなら確かにまとまるでしょう。
「メンバーが20人を超えた頃から
問題が始まった」
さらにわずか2年で80人ものメンバーに。
当然創業時の苦労を知らないメンバーばかりですね。
急速な組織拡大で会社の方向性がぶれるときなのでしょう。
そこで吉松社長は、夫婦だけの経営メンバーから
フラットな経営チームを作ります。
菅原敬、佃慎一郎、高松雄康の3人。
アクセンチュアの同期で創業メンバーの菅原
(現アイスタイル取締役CFO)
アクセンチュアの後輩の佃
(現ティー 代表取締役/NODE 社外取締役)
就活時代の仲間で広告に詳しかった高松
(株式会社オープンエイト代表取締役兼CEO)
「役員報酬も5人全員一律に設定。
呼び方も『吉松』、『菅原』など
お互いに呼び捨て」
つまり
「対等に喧嘩のできるボードメンバー」
なかなか参考になりますね。
ただ、最後にツライ記述。
「結婚10年目の2009年に離婚を決めた。」
その6 100人体制
5人の新体制で社員も100人に。
創業メンバー20名以外に80名の大所帯。
ここでなまめかしい悩みですね。
ここ参考になりますよ。
何をやるかという「事業づくり」より
「組織づくり」を優先するのですね。
「『何をするか』と同じくらい『誰にやってもらうか』を
考えなければならない」
これによって創業時のメンバーも去っていたようです。
どうやら「化粧品の口コミサイト」という
ビジネスモデルだけで簡単には収益化できなかったのですね。
つまり、当初より
「口コミサイトへ広告を取る」
ことを収益の柱にしようとしたのです。
ここ勉強になりましたが、分かりますか?
25年も前の広告業界で
「商品の悪口を書かれる可能性のある場所に
誰が広告を打つというのか?」
「化粧品の広告というのは『美容のプロ』たちが
手掛ける美辞麗句の並ぶ女性誌に打つもの。
『素人』の口コミが集まるサイトに
広告を出すなんてありえない」
まあ確かにそうでしょう。
しかもインターネット広告ななどは
せいぜい10万円くらいが相場。
今も確かに安いのです。
でも吉松社長は資生堂に対して
コンサルタント料含む1500万円を提示。
このように広告専門の営業部隊が活躍していきます。
売上がようやく10億円から20億円へ。
創業から5年が経って2005年7月。
次のステージへ移ります。
なかなか高額な広告何てそう簡単には
取れないと判断したのでしょう。
「サイバーエージェントと業務提携して
新たなインターネットマーケティングの
会社」を作ることにしたのです。
結局提案力の高いサイバーエージェントと
組むしかないと判断したのでしょう。
2004年頃からリアル店舗の
出店を考えていたそうです。
でも取締役会で反対で否決。
「口コミというデータベースを軸にした
化粧品情報のプラットフォーム」
何度も迷走していきます・・・。
その7 上場申請を取りやめ
2005年にリアル店舗の役員会で否決された
理由は上場を優先することでした。
当時は売上10億円、利益1億円ほどで
「マザース市場なら上場できた」
のですね。
VCに多額の出資を受けながら生き延びた
アイスタイルとしてはVCのためにも
速く上場したかったのでしょう。
でもしなかったのです。
それでも吉松社長のリアル店舗政策に固執したことから
2007年3月、
「ルミネエスト新宿」に「@cosmeSTORE」
の第一号店がオープン。
でも「僕自身は小売店で働いたことがない」
ずばり化粧品メーカーから、
「吉松君は売り場に立ったことあるの?」
「インターネットでうまくいっても、
売り場での商売は簡単じゃないよ」
「お店のお客様は厳しいよ」
なかなそうでしょうね。
来店客は
「人気商品を知りたい」
「試してから買いたい」
確かにそういうニーズあるのです。
ここ何年か、小売りでネット販売の会社を
見てきましたが、確かに「リアル店舗」は
絶対にあったほうが望ましいのですね。
@cosmeのノウハウが書いてありました。
「今では@cosmeユーザーのIDとリアル店舗の
来店客IDを統合し、口コミとリアル店舗の
購買履歴を一緒に見ることができるようになった」
これは当社独自でしょう・・・。
2007年には目標の売上20億円に達します。
2度目の上場を目指します。
当時のヘラクレス市場なら上場はできたのでしょう。
でもここでも土壇場で
「上場申請の取り下げ」
理由は
「上場がゴールでない」から・・・。
その8 上場したけど「つぶれる」話・・・
@cosumeTOKYO
2012年3月ようやくまさに「満を持して」
マザース市場(当時)に上場。
さらに同じ年の11月には
東証一部(現在のプライム市場)に上場。
「年20億円の売上を2倍となる40億円にする」
ここで陣頭指揮を執ったのが
博報堂から引き抜いた既出の高松氏。
今まで経営陣全員がフラットな体制だったのが
COOと高松氏だけ持ち上げ全権委任したのですね。
しかし、ここで二人はぶつかり合います。
興味深く読みました。
広告という収益力を強化すべきという高松氏と
@cosmeの価値そのものをバージョンアップ
すべしという吉松氏。
収益力を強化すべきか投資を優先すべきか
上場した以上株主の負託にこたえるためには
利益を出しては配当することを要求されるのですね。
最終的には高松氏にCOOを降りてもらい
方向転換。
2016年には
「2020年に売上高500億円を目指す戦略プラン」
500億円のうち100億円は海外事業で稼ぐべく
グローバルチームを組成。
2020年初頭までは海外の連結子会社は
7か国9社、実店舗は12店まで。
さらに国内では2020年1月10日。
@cosumeTOKYOがオープン。
原宿駅前に立つビルの3フロアー400坪。
この年には東京五輪も開催される予定だった。
訪日外国人もさらに増える・・・。
しかしコロナ禍。
冒頭書いた
「つぶれない話」
につながっていきます。
確かによくつぶれなかったかなとは
思います。
リアル店舗をどんどん縮小して
乗り切ろうとはしましたが、
最終的にはこの@cosumeTOKYOは
残したのです。
週末もなると外国人観光客で賑わい、
レジの列が幾重にも折り返すほど。
2023年の売上はこの一店舗だけでも
60億円にもなるそうです。
世界一売れる化粧品店にしたのですから・・・。
そのほかリアル店舗も34店舗(2024年6月期時点)
運営するアイスタイルリテールの売上高は
400億円とグループ全体の560億円の7割。
冒頭のamazonとの提携後は
急拡大しているのも事実です。
「リアル店舗とネット通販」のバランス。
「会社やサービスがつぶれるかどうかは
本当にちょっとした選択の差で決まる」
どうでしょうか。
参考になったでしょうか。
(がんばれ!つぶれない店シリーズ おしまい)