その1 AIの登場により人文知が重要となった
このところAIのお話ばかりですね。
あまり偏りすぎてはいけないと思い、少し毛色の変わった本を取り上げます。
中島聡さんのYouTubeをいろいろ見ていたら、
山口周さんという方がいらっしゃることを知りました。
今やサラリーマンの救世主、カリスマのような存在の方のようです。
20年ほど前の勝間和代さんみたいな方でしょうか。
まず、山口周さんのご紹介をします。
1970年生まれとのことですから、私とちょうど10年違います。
慶應義塾高校、慶應義塾大学文学部哲学科を卒業されました。
慶應義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程を修了した後、
電通に入社されました。
その後、外資系のコンサルティング会社にて活躍されたのち、
独立。
現在は経営コンサルタントとして大活躍されています。
まず哲学科ということを聞くだけで、私はちょっと引いてしまいます。
私が最も苦手とする分野だからです。
高校生の時、哲学の授業は苦痛でしかありませんでした。
また、その書籍を読まされる現代国語の授業もつらい思い出でした。
でもあえて、そういう苦手な分野にチャレンジすることもまた、
読書の楽しみでもあります。
深井龍之介さんは1985年生まれです。
さらに若いコンサルタントです。
山口さんの難しい理論が深井さんとの対談形式で構成されており、
難解な論点が比較的分かりやすい内容になっています。
「人文科学は役に立たない」と長らく言われ続けてきました。
この一文でこの本は始まります。
確かにそうですね。
「人文科学」はビジネスパーソンにとって不必要なもの、
と言ったら語弊があるかもしれませんが、
まず優先されるのは会計、財務、統計、プログラミングといった
「すぐ役に立つスキル」
でしょうから。
しかし大事なことは、
AIの登場によって「『正解を出すスキル』
『書き方(型)』が急速にコモディティ化している」
ということです。
こちらの記述によってさらに驚きます。
「2026年1月の大学入学共通テスト15科目のうち、
ChatGPTが9科目で満点を取った」
そうです。
これまでは
「試験で高い点数を取れる」ということが、
人間の「優秀さ」を測る最も重要な指標だった
わけですが、
ChatGPTという、まさに月額2000円程度で安価に提供されるAIによって、
最優秀な人間のパフォーマンスを凌駕するようになってきているのです。
これだけでも驚きませんか?
特に私の世代は共通一次世代で、まさに初めて共通一次が誕生した年に
高校生でした。
共通一次で高い得点を取ることこそが、
幸せになると信じてきたわけです。
それをクリアして、東大を頂点とするピラミッドに入ることこそが、
幸せになるルートと信じて疑わなかったわけです。
その根源的なものが、もはやAIの登場で揺らいでいるわけです。
山口氏は
「人文科学を「教養」や「たしなみ」と呼ぶよりも、
むしろ「OS(オペレーティングシステム)」
だと考えているようです。
AIを使いこなす鍵は、AIの操作方法ではなく、
問いを立てる力と仮説を構築する力にあります。
人文科学をOSと捉える考え方は、ご理解いただけますか?
普段AIを使っていると分かりますが、曖昧な問いに対してAIは曖昧な答えを出します。
問いが浅いと、AIは浅い答えを出すのです。
深井さんは、
「人文科学を単なる「知識の保管庫」ではなく、
社会を動かすエンジン」
とまで言っています。
それがどういうことなのか。 ご一緒に考えてまいりましょう。
その2 そもそも人文知とは?
ところで、「人文知」とは何か、
ということを説明しなければいけませんね。
「人文知」とは、 「哲学、歴史、文学、宗教、芸術などの学問から得られる、
人間や社会を理解するための知識と思考様式の総称」
なのだそうです。
正直なところ、なんだかよく分かりませんね。
もっと分かりやすく書いてありました。
「『自分とは何か、世界とは何か』を探求する過程で生まれる知、
ないしは探求するのに必要な知」
なのだそうです。
深井氏は、ビジネスパーソンに「人文知」は 絶対に必要だと主張されています。
その理由としては、古今東西、時代を通じて成功するリーダーには、
「正確な現状認識」ができているという共通点があるから
なのだそうです。
ここは難しかったのですが、
たとえば今のアメリカ政治を見渡したとき、
トランプ大統領の支持基盤の重要な一翼を担っているのが福音派で、
トランプ票の約3分の1を白人福音派が占めているとも
言われているそうです。
これがアメリカという国を動かす大きな要素になっていることすら、
普通の日本人は知らないですよね。
つまり日本では、福音派がどういうロジックで、 どういう気持ちで
トランプ氏を支持しているのかを理解できる人は
非常に少ないからです。
歴史を勉強することは、異なる社会について知ることです。
逆に言うと、異なる社会を知ることによって、相対的に自分が
所属する社会について理解を深めることになります。
ビジネスに限らず、自分の人生、あるいは社会や世界で
よりよく活動しようとしたら、
「世界に対する解像度」を上げ続ける以外に方法はありません。
世界を知らないと、そこで何をしていいかも分かりません。
その世界を知るには、現代だけを生きていても分かりません。
その方法こそが、歴史を学ぶことなのです。
AIの費用が安くなり、センター試験で満点が取れるくらい能力が
高まった今、必要なのは単なる暗記された知識ではなく、
次の2つの能力です。
まず、「問い」を立てようという章の内容に驚きました。
では、歴史を学びたいと思った人が、
どんなふうに学んでいったらいいのでしょうか。
高校時代、山川出版社の日本史や世界史で
学びましたね。
「やっぱり面白くないんですよね。乾いた事実の羅列を
ひたすら読まされ、覚えさせられる。
砂を食べるような勉強をさせるから、 みんな嫌になってしまう」
そうですね。実は私は高校時代、日本史も世界史も結構好きでした。
共通1次試験(今の共通テスト)も世界史、日本史で受験しました。
ひたすら山川出版社の教科書を何度も何度も読んで暗記した、
正直に言って結構つらい思い出です。
大学に入ってそれ以降、歴史について学ぼうと考えたことすら
ありません。
本当は小学校のころから歴史というのは好きだったんですけどね。
いつの間にか嫌いになってしまった、
その理由が山川出版社の教科書だったのですね。
ここは妙に納得しました。
結局は年号や知識をただ暗記するだけといった、
負のループに陥ってしまうのです。
「『日本人ってどんな特徴を持っているんだろう』みたいな問いを立てたら、
日本の歴史を知る必要がありますし、他の国と比較して考えるには、
他国の歴史も知る必要がある」
やはり歴史の学び方がおかしかったのですね。
その3 深井氏のユニークな経歴
著者の一人の深井龍之介さんはなかなか面白い経歴ですね。
九州大学文学部卒で、最初は東芝の半導体部門の経営企画に
配属されました。
「新人でしたが、経営企画にいたので、 経営層が出席する会議にも
出られたのです。 これは言っていいのかわかりませんけど、
その様子を見ていると、世界史を勉強していた僕からすると、
『これは滅びる組織だな』って感じてしまったんです。」
2009年くらいのお話ですから本当に新人で、 それを感じたのはすごいことですね。
私もこれはブログでは書いたことがありませんでしたが、
某野村證券の子会社の業務企画部にいたから、
私も確かに経営と直接話ができました。
「これは滅びる組織だな」と今ならそう思いますね。
当時はそこまで気がつきませんでした。
本当にその会社はなくなってしまいましたからね。
しかし、それで深井さんは脱サラしたのですね。
その意味で脱サラのトリガーは深井さんと一緒です。
2011年に脱サラ後、深井さんはコンサルタントとして独立。
2013年には福岡の電気自動車ベンチャー企業REEVOの取締役COOに就任。
2015年、福岡のヘルスケアAIベンチャーである株式会社ウェルモの社外取締役に就任。
2016年、株式会社COTENを設立。
「歴史のデータベース化」を事業として開始。
歴史で事業を始めた方はまずいないでしょうね。
目指しているのは、 「歴史を知るリーダーが社会を動かしていく」
という世界観です。
人文知のインテリジェンス部門を社内に創設しましょう、
ということを提唱しています。
IT導入をたとえで紹介されていますが、
「ITの導入に近い話だと思うんです。
経営者はITエンジニアになる必要はないけれど、
エンジニアを使いこなすためのリテラシーが必要です。
ある程度のリテラシーがなければ、プロフェッショナルを雇ったり
CIO(Chief Information Officer)を置いたり、
ITに関連する経営判断をしたりすることもできないのと
同じですね。
IT部門をすべて外注してしまうことには危険性があるのと同様に、
人文知インテリジェンス部門もなるべく内製化したほうがいい。」
その4 やはり山川の教科書が悪かった!?
「ピーター・ドラッカーが世界中の歴史を見て、
最も成功した社会変革の事例は日本の明治維新だ
と言っているそうです。」
なぜ明治維新は成功したのでしょうか。
「ドラッカーはその要因の1つとして、藩ごとに教育制度や
政策が異なるために、倫理やリーダーシップ論などについて
微妙な多様性があった、と言っています。」
ここですね。深井氏は日本独自の多様性について強調しています。
欧米型の多様性をそのまま受け入れるのは違うと、
はっきりと述べています。
日本においてスタートアップ企業が育たないのは、
この多様性を理解していない経営者が多いからだと、
深井氏は言っているのだと思います。
「うまくいってない原因は、僕たちの文化的背景を無視して、
アメリカの真似をしすぎたからじゃないかと思うんです。
日本って、ユニコーン企業(創業10年以内の未上場で
企業価値10億ドル超のテクノロジー企業)は14社で
メキシコより少ない。」
明治維新であれだけのことを成し遂げたのだから、
日本はポテンシャルを持っているはずだ」
というお話です。
よいヒントを述べています。
「日本はコンテンツビジネスが超強いんだから、
漫画やアニメとかで儲かる仕組みが本当に
考えられなかったのかなと。」
「自分たちの特性、強みを生かした新しい仕組みを、
金融界も企業家も考えたほうがいい。
生成AIが超速の進歩を遂げる中、ホワイトカラーの仕事も
激変し大きく変わっていくでしょう。
つまり、分野横断的、学際的に物事を見て総合判断できる
リーダーこそが必要になっていくはずです。」
「急変する世の中で求められてるのは、
暗記が得意だったり、出された問題に正解できる能力ではない。
現状や環境を理解できる「人文知」を持った人、エリートが
求められている。」
私の年代では、学校教育といえば英語でした。
英語ができれば出世できる、とにかく英語を勉強しよう、
英語を勉強して世界に出よう、それがエリートになる一番の近道
だったわけです。
しかし、これからのリーダーにとって、「人文知」は
その教養として必須になっているそうです。
なかなか勉強になる本でした。
学生時代、山川の日本史は、世界史みたいに必死になって勉強して、
歴史とは年号と地名人名をひたすら暗記するものと考えていました。
当時の私にとっては、まったく想像もつかない領域でした。
そういう意味で、かなり驚かされた本でした。
(がんばれ!人文知シリーズ、おしまい。)