その1 現役税務署職員の暴露本?
毎日暑くなってきましたね。 AIばかりだと疲れるので、
「軽い」物語を読みましょう。
税務署の職員が書いた本らしいですね。
ただこのシリーズ本「・・・日記」ですが、
きっとゴーストライターがいると思うのですね。
綿密に取材すれば、結構書けるはずですから。
「30年超に及ぶ税務署員人生で私が実際に
この目で見て、 肌で感じた『ありのままの税務署』を
描きたいと思う。」
「本書の執筆に際してはペンネームを用いた。
私は今も税務署の窓口に立つ、
現役の税務署員だからである。」
一応国家公務員ですからね。
国家の機密をバラすことは 絶対できないはずですが・・・。
まあそこはいいでしょう。
フィクションとして楽しむ本でしょうね。
「税務署員もなかなかたいへんなんだな」
と思ってほしいから書いたそうです。
まあそういう意味では、ノンフィクション?の
「暴露本」 なのでしょうか・・・。
この主人公は子供のころから
「将来は公務員になりなさい。食いっぱぐれがないからね。
でも、警察と税務署だけはやめときなよ」
と言われながら育ちます。
でも「それでもどうして税務署の職員になったのか?」
このくだりはリアルすぎて面白かったですね。
「関西地方の中堅私大に通っていた私たちにとって、
進路の選択肢は驚くほど狭かった。
ゼミの先輩たちの就職先を見れば一目瞭然で、
名の知れた企業に行く者はごくわずか。
なんの伝手も取り柄もない私たちに残された道は
たったひとつ、 公務員だった。
やりたい仕事があったわけではない。
ただ「公務員」という肩書きだけが、
この大学に通うわれわれにとって、
周囲から一目置かれるためのカードだった。」
いわゆる「Fラン」ということでしょうか?
税務職員を馬鹿にするわけではないのですが、
「なんとなく・・・」 「税務署でも・・・」 という
「デモシカ」族なのでしょう。
「税務署職員になって、税金取り立てて国のために 働きたい。」
「納税者に正しい納税方法を教えたい。」
何か特別な理由があった訳でもないのですね。
国税局に採用されて3か月の研修として、
税務大学校の全寮制で税務職員としての基礎を
学ぶのですね。
あと驚いたのは、そこでの目標が簿記2級だったことです。
「簿記2級は必須になりますから、
できれば大学のうちにやっておいてくださいね」
と言われていたのにも関わらず、取っていなかったのですね。
でもこの主人公は簿記2級試験に落ちてしまいます・・・。
ここはリアルすぎますね・・・。
その2 花形の調査マンから内部事務へ
この本は実は題名の通り、主人公が「うつ」になってしまう物語です。
「そうなのか……そんなに税務署のお仕事は大変なのか」
日頃税務調査などで接する機会が多い税理士として、
非常に同情する面が多いですね。
簿記資格なしFラン出身ながら、税務署の「花形部署」である
法人課税部門に配属されます。つまり税務調査を行う部門は、民間でいう
「花形営業部門」にあたります。
努力の成果かいろいろ手柄も上げていきます。
「ピンサロの調査」
は感銘を受けました。
ちょっと活字にはできないので、本書をお読み下さい。
「ここまでバラしていいの?」
思わず考えましたが。
税務署希望の就活生がこれを読んだら困るでしょうね……。
もう一つのバラシネタ。
「表向き、調査官にノルマはないことになっている。
だが実際には、部門ごとに前年との比較や目標としての
追徴額が厳然と存在する。」
どんな企業であっても営業部門には目標があります。
「好きに営業していいよ」
なんて悠長なことやっていたら会社はつぶれて
しまいますからね。
国家公務員でも当然ノルマ=目標があるのでしょう。
この主人公も営業成績はだんだん落ちてきます。
毎年4月、税務署では「身上申告書」という書類を
提出するそうです。
毎年4月、税務署では「身上申告書」という書類を提出します。
「希望する職務内容」の欄に、いつも
「内部事務」
という希望を出していたそうです。
つまり「営業=税務調査なんてやりたくない」ということです。
でも営業を外れるということは、出世コースから
外れるということですからね。
これは民間では当たり前で、当然某野村證券でも
確かにそうでした。
ただ、税務調査で税理士と闘い過ぎて「うつ」になったのでは
ないのですね。
そこがまた今日的で、「サラリーマン悲哀物語」
を地で行っています。
希望の「内部事務」に異動してからなんと!
「うつ」が発症してしまうのですね。
その3 なぜうつに?
法人部門から内部事務に移り、プレッシャーから解放された
はずなのですね。
でも、内部事務のほかに、「新人教育」と「組合役員」という
2つの役割が加わったのです。
「私のおもな任務は、法人税・消費税の申告書入力。
これを新人とペアで進めます。」
でも「これいつのお話?」そう思いますよね。
いまならe-taxで自動で入力されるはずですが。
まあ、いまだに紙の申告書もないわけでは
ないでしょうけど。
あとは「アルバイトの管理」です。
実はいま税務署の窓口は100%アルバイトなのですね。
その仕事の割り振りまで全部やらされるのです。
でもこれが半年も続くと「うつ病」が発症します。
結局それが原因で休職してしまうのですね。
3か月休職ののちに復職します。
1年も経つと「寛解」(かんかい)になります。
寛解という言葉は初めて聞きましたが、
「完治」とはいえない状況らしいです。
でも「うつ病」というのは恐ろしいことに
再発の多い病気らしいです。
数か月後にやはり「再発」します。
「この先も自分の人生は『再発』→『復帰』→『再発』→
『復帰』と無限ループを繰り返すのではないか。」
「そもそも国税局に入ったこと自体が誤り
だったのではないか。そんなことまで考えた。」
その後この主人公は休職を繰り返しながら
税務署に勤め続けます。
税務署では、心身の状態に応じて勤務上の制限
「超過勤務禁止」などを付ける仕組みがあるのだそうです。
ですから残業もできない身分なのです。
うつ病を発症してから20年以上、
2026年まで5度の転勤を繰り返します。
ある主治医にこう言われます。
「大蔵さん(主人公の仮名)は公務員でよかったですよ。
中小企業だったら、クビになっているかもしれませんよ」
まあ中小企業の顧問税理士としてこれは痛感します。
「表向きは『あなたのためです』なんて配慮≠装いながら、
自主退職を促すんですよ。
1年も休んだら、たいてい居づらくなって辞めていきますよ」
まさにそうです。
1年も休職して通常通り復職できるほど、
中小企業には余裕もそんなカルチャーもないのです。
「MJ」という隠語を初めて聞きました。
「万年上席」というらしいのですね。
上席とは一般企業では課長でしょうか。
休職を繰り返しながらも課長職に留まれるのは、
確かに税務署だからでしょう。
やっぱりこの主人公はよかったのかなとも思いますね。
この本を税務署志望の就活生に送りたいですね。
リアル「人生すごろく」かなと思います。
「今から三十数年前、X国税局に採用された同期は20名。
そのうち4名はすでに退職しています。
残る16名の中で、10名は統括官以上に昇進し、
なかでも2名は出世頭として署長級のポストに就きました。
一方で、私を含む6名は上席止まりです。」
その4 税務署職員の待遇を暴露?
この本は「リアル税務署物語」、つまり完全なノンフィクションでは
ないかと思うところが何か所も出てきます。
それは税務署職員の待遇についてですね。
これはさすがに想像では絶対に書けないお話だからです。
30代でうつ病を発症したこの税務署員について、
当時「手取り25万円だった」と書いてあります。
ご存じでしょうか。休職すると、「傷病手当金」という
社会保険上の厚遇が受けられるのです。
通常は月額等級の3分の2なはずです。
仕事をしないで休んでいて手取り18万もらえれば、
まずまずなのでしょう。
年収の具体的な記載もありました。
「税務署員の年収は、20代で400万円台から500万円台、
30代で600万円前後、40代になれば700万円台から、
統括官なら1000万円台となる。」
どう思いますか?
統括官という、いわば一般企業の課長職にあたる方々は、
なんと1000万円台なのですね。
それはそれで、民間並みのレベルなのではないでしょうか。
もう一つ驚いたお話は、「官舎」という制度です。
「世帯用官舎の建物は古いものの、2LDKなどでわりと
部屋も広い。
家賃は独身用だと1万円、世帯用だと2万円程度で、
相場の5分の1以下だ。
福利厚生面で公務員は恵まれている。」
今でも相場の5分の1程度なんて羨ましいですね。
40年も前のお話ですが、当時は確かに某野村証券でも
月の負担1万円ぐらいで入居できたとは思いますが、
もうそれも今は昔の話です。
どの企業にもそんな制度は現在ないでしょうね。
これはこれで公務員という恵まれた待遇を証明する
制度なのでしょう。
ただ、特筆すべき事例がはっきり出ていました。
これは正直知らないお話で、民間の方が聞いたら
多少怒る方も出てくるのではないでしょうか?
「特筆すべきは国家公務員に支給される『地域手当』だ。
民間の賃金水準を反映させるため、勤務地域に応じて
基本給等に対して最大20%(東京23区など)出る。」
これはすごいですね。 都内で働く統括官なら1200万円以上です!!
吉田事務所の目の前に、綺麗で高級感のあるビルができました。
今そこに「中野税務署」が移転しています。
駅直結の綺麗な駅ビルで働いていれば、
統括官で1200万円です!!
うつになるくらいにキツイ仕事かもしれませんが、
頑張って統括官(課長)になれば高給が保証されます。
どうでしょうか?
就活生に教えなければいけませんね。
その5 なぜ税理士にならないのか?
ただここで税理士として、どうしてもこれは申し上げなければ
ならないことがあります。
「一定期間(23年以上)勤務した国税庁・税務署OBは、
税理士試験を受けずに税理士登録できる。」
こういう制度があるということですね。
税務署内の通称らしいですが、「無試験税理士」というのです。
税務署に長年勤続すると、税理士という資格が与えられるのです。
これ、私が税理士の受験勉強を始めた頃から知っているお話ですが、
実に羨ましい制度だと常々思っておりました。
あんな難しい試験を毎年受け続けながら、
無試験で資格が取れる仕組みを、正直、
不公平な制度とさえ思っておりました。
さらに昔は税務署を一定以上の役職で退職して税理士になると、
税務署が顧問先まであっせんするということが当たり前にあったのですね。
そんなお話はもう今や都市伝説でしょうけど。
だから税務署はきついお仕事であるものの、
将来は税理士として独立できる、
そんな古き良き制度が残されていたのですね。
私がこの業界に飛び込んだ30年以上前には、
そういうOB税理士がたくさんいて、幅をきかせていました。
だから多少仕事がきついけど頑張れる、
そんなお話も聞いたことがあります。
「長年の調査経験や税法知識を持つため、
企業側からは『税務署の考え方を知っている存在』
として重宝されます。
長年の税務実務経験を専門性として評価する考え方に
よるものです。」
と書いてありましたが、これも正直に書くと、
要するに税務署に顔が利くということで
税務調査において重宝されたというのが実情だったのでしょう。
実は私も修業時代、税務署OBの事務所で働きました。
税務署との太いパイプがあって直接商売に生かしていた
というところをまさに間近で見たのです。
私も開業した28年前、
「試験で受かった税理士は税務署に顔が利かないからな」
と、ある社長に断られたことを今でも覚えております。
あの悔しさは忘れることはできません。
ただ、残念ながら「顔が利く」と言われていたこの不公平な制度は、
いろんな事件をきっかけに現在では全く通用しなくなっております。
それはそれで公平になったと思っております。
ある意味、税理士になれるというのは、
天下りのない税務署職員の方々にとっては残された制度
だったのかもしれません。
ただ残念ながら、今税務署を退官して税理士になる方は、
よほど自信がない限り税理士にはならないようです。
65歳までの定年までは再雇用という制度もあって、
税務署職員を続ける、定年まで続けるという人が多いようです。
「あえて税理士登録しない人も少なくありません。
営業や顧客対応に自信がない、
開業しても顧客獲得が難しいです。」
これについては正直、現役の税理士として思います。
今顧客獲得競争がたいへんです。
60歳で初めて税理士になっても簡単にはお客さんは
できないでしょうね。
ちなみに、このうつで退職された主人公は
税理士にはなりませんでした。
これも本音として記載されていました。
「私も一定期間、税務署に勤めたため、税理士登録が可能です。
だが、私は税理士登録をするつもりはありません。
OB税理士たちを見ていて、その仕事ぶりに魅力を
じられなかったというのが大きな理由です。」
本当に税理士になっても、余計うつが悪化するだけ
だったからなのでしょうね。
その6 本当の税務署職員は・・・
私は開業して28年になります。
税務署OBの税理士と最も接してきた税理士の 一人であると
断言できます。
なぜなら私が得意とする囲碁を通じて非常に多くの税務署OBの方々と
接してきたからです。
今は違いますが、昔から税務署は非常に囲碁が盛んでした。
どこの税務署にも必ず碁盤が置いてあり、皆昼休みになると
必ず囲碁に興じていたのです。
囲碁を打つように勧める文化もあり、また出世の一つの要件として
酒、ゴルフだけではなく囲碁も入っていたようです。
碁会があると必ず宴席があります。
税務署の方々はお酒が本当に 大好きなのです。
私も若手ながらで囲碁が打てたせいか、またお酒も多少飲める方だったので
大先輩から可愛がられ 酒を酌み交わしながら
いろいろなことを教わったものです。
「芸は身を助く」 ということを本当に
この28年間実践してきたのです。
私が修行していた30年以上前は、税理士にとって 「古き良き時代」で
あったことは認めます。
税務署と税理士会の囲碁の対抗戦があって、
そのあと懇親会も ありました。
税務署から40代、50代で早期退職して税理士になる方も
たくさんいたせいか、将来の布石として積極的に接触していた
のかもしれません。
税理士会側もできるだけ税務署との個人的なパイプを作るべく
利用していたという理由もあります。
よって囲碁を通じて現職の税務署職員であったり、たくさんのOBを
通じて税務署の内情を比較的知っているつもりです。
そのため本書はノンフィクションに限りなく近い「フィクション」で ありながら、
かなりデフォルメされているようにも 思います。
よって、きっと仕事はきついけど、将来税理士となって楽しい思いもしたい。
それが事務所職員の一つのモチベーションだった気もしております。
しかし、今はもうまったくそんな甘い人生設計は
できないのです。
税務署の方々が税理士と会合を持つ際に、届出がいるとさえ
聞いたことがあります。
「税理士として天下りもできず、再雇用で定年の65歳まで
年下の上司にこき使われる・・・」
本書のように、まさに「うつになりながら」働かれている
職員の方は確かにいるのかもしれません。
でも最後に申し上げたいのは、 「税金を取り立てている」厳しい仕事を
しているせいか 税務署というだけで悪く見られがちですが、
本心は良い方々が多いということです。
たくさんの税務署OBの方々を見てきた一人でとして
はっきり申し上げたいと思います。
そんな税務署職員にエールを心から送りつつ終わります。
(がんばれ!税務署職員シリーズ おしまい)