その1 森金融庁長官シリーズ第2弾





捨てられる銀行2



待望の第二弾が出ましたね。
この前著「捨てられる銀行」はこのブログでもかなり熱く
取り上げました。
「半沢直樹」を思い出しながら、ブログを書いていて
楽しかった・・・。こちら


前著が出たのが、ちょうど1年前でしょうか。
この本と「キリンビールの高知支店の奇跡」の2冊は昨年の
吉田版「本屋大賞」でしょうね。

あれから、顧問先の社長さんに「捨てられる銀行」をずいぶん薦めました。

「金融庁長官が変わって方針が変わったらしいですね。」

交渉に当たって銀行担当者に言って先制パンチするのですね。
銀行の進むべき方向を事前に知っておくことはやはり大事ですからね。

社長のデスクの上にこの本を置いておくのも、
ある意味「お守り」になります。

おかげで

「銀行交渉にたいへん有効だった。」

と多くの社長さん方から感謝されました。

 

さて、その第二弾。

前著で「諸悪の根源の金融検査マニュアルを撤廃した」森金融庁長官の
次なる手はどんなものか。
これをぜひ知っておいていただきたいからこそ、またご紹介するのですね。


金融行政の残る一つのテーマ「国民の資産形成」なのですね。


銀行はお金を貸すことも仕事ですが、預かることも仕事ですよね。
預金として預金利息を顧客に支払います。
お分かりの通り、「銀行預金」ですね。

ただ今や低金利の時代です。
わずかな、本当に「スズメの涙」程度の預金利息しかつきません。


そこで、銀行側は、
受付の女性担当者に対して

「お客様、資産運用のお考えはございませんか。
貯蓄性の保険商品などご興味ありますか。」


こう切り出すように指導しているのですね。
はては外貨建預金や、終身保険、さらには投資信託まで薦めている
というのですね。


「低金利の時代だから、お得なものを薦めて何が悪い。」

そう言われるかもしれませんね。

 

「でも本当にそれはお客さんのために薦めているのか。」

そう金融庁長官は言いだしたのです・・・。




その2 ひさんな運用


この本のサブタイトルがかなり衝撃ですね。

「非産運用」

お分かりのように、「資産運用」を「非産運用」としていますね。
「ひさんな運用」とも読み取れます。


日本の金融機関の「資産運用」は明らかに「ヒサン」だと
この作者が言っているのではなく、森金融庁長官が
言っているのです。


もっと分かりやすく言えば、冒頭でいった、銀行の窓口の女性は、
顧客の満足のためでなく、銀行の手数料稼ぎのために商品を売りつけている
ということなのですね。


この本を読んで、個人的にかなり衝撃でした。

「銀行がまさか・・・」

本当に思いました。
こういうことを直感的に分かる税理士は私だけですね。(ちょっと自慢?)


なぜなら、私は30年前に証券会社で投資信託を販売したことが
ありますからね。
もう「時効」でしょうから、何でも書きましょうかね。


あの頃の証券会社は「何でもあり」でしたね。
手数料稼ぎのために、「投資信託の乗り換え営業」は日常茶飯事。
投機性の高い投資信託(いわゆるインデックスファンド)を売りつけて
値が上がるとそれを売って、他の種類のまたインデックファンドを
買わせる・・・。
その手数料が確かに3%くらいだったと思います。
でもそれくらいしないと本当に営業マンのノルマが達成しないのですね。
確かに、あの頃は営業マンのノルマが毎月一人5000万円くらいは
あったと思います・・・。
ノルマ達成のためには、投資信託の乗り換えどころか、
国債でも株式でもなんでも乗り換えました・・・・。


懺悔を込めて申し上げますが、それが本当に顧客のために
なっていたかどうか・・・・。
でもそんなことを真面目に考えたら、
ある意味生きていけない世界だったのですね・・・。(これ内緒かな?)
本当に嫌で嫌でたまらない仕事でした・・・。


投資信託の乗り換え営業は、その後いろいろと問題になって
根絶したと思っていたのですが、まだまだしぶとく残っていたのですね。
しかも、証券会社ならともかく、銀行の窓販に・・・。

これが本当だとしたら、まさに「ひさん運用」です。


地方銀行の多くの若手行員が、今入行2,3年で辞めていくそうです。

「顧客のためにならないことが分かっている金融商品を
売らされるノルマ」で嫌になっていくのだそうです。


その気持ちよく分かりますが、
「30年前と同じではないか!」
私も怒り出したくなりますが、一番怒っているのは
張本人の森金融庁長官なのです・・・。





その3 そもそも金融庁が失敗!


私が証券業から「足を洗って」からもう25年あまり。
その後バブルが崩壊して、証券不祥事が勃発。
当時の幹部が逮捕され、さらには山一証券も消滅して、
かつての「コテコテの」証券マンは、生息しなくなったと
思っていたのですね。

ところが姿を変えて、また販売手法も買えて
銀行に残っていたのですね・・・。
これは驚きですね。

2016年3月末の投資信託の売れ筋ベスト5です。
1位 米国不動産投資信託(REIT)
2位 海外リート
3位 米国リート
4位 海外株式
5位 米国低格付け債券

これ見てまたビックリポン!
30年前と同じ証券手法!!
すべて海外ものですね。しかもリートが大半。
海外は為替が絡むので必ず手数料高いのです。
そんなことは証券マンとしては、当たり前田のクラッカー!
(すいません。40年前のギャグ・・・)

当時は海外株式だけでなく、ゼロクーポン債とか海外ワラント債などで
手数料稼ぎしていましたね・・・・(古いお話)


公表されている投資信託の平均販売手数料は3.2%です。
いかに手数料稼ぎと言われても仕方がないですね。

 

もっと手厳しく森金融庁長官はいっています。

 

「これまで、資産運用会社は投資信託の製造においても
『もっともお客様のためになる商品』よりも
より『系列の綾会社が販売しやすく手数料が稼ぎやすい
綾会社のためになる商品』をつくってこなかったでしょうか」


これはズバリですね・・・。

もっとすごいことも森金融庁長官はいっています。

「そもそも金融庁の失敗だったと・・・」

こんなこと平気でいう役人は他にはいませんね。


しかし、この著者が力説していること


「そもそも金融機関を目先の収益力強化と健全性で追い立て、
そうした顧客本位でない金融業界をつくり出し、見て見ぬふりを
してきた張本人こそが金融庁ではないのか」




その4 顧客本位の業務運営



「金融行政の失敗」と自ら森金融庁長官が認めているのが
面白いですね。


では、それを説明するために、なぜそもそも「銀行窓販」という制度が
できたのでしょうか。

それは今から25年以上前ですが、私が現役の証券マンだった頃、
「金融ビックバン」と呼ばれた時代に遡ります。

この言葉自体も懐かしいですね。
規制改革(フリー)や国際化(グローバル)という単語と共に
よく言われていましたね。


「これからは新しい金融の時代が来る。」


そう思って証券会社に勤めながら税金の勉強をし出したのが
その頃でしたから・・・・。


金融ビックバンの名のもとに、いろいろと規制改革が行われました。

外為法が改正され、生保と損保の相互乗り入れが解禁になり、
その一環として、銀行窓販も解禁になり、銀行でも投資信託を
販売できるようになったのですね。
一方で、セブン銀行やソニー銀行、楽天銀行など事業会社も銀行業に
参入できるようになったのです。


そう「明るい金融の未来」の時代がきたと同時に、やはり「過去の負の遺産」
の処理が進みますね。

1996年金融庁が登場したのは前著で詳細に出ているとおりです。
銀行は「未来の金融行政」へとかじ取りを取りながら、
やはり不良債権処理に忙殺されたのです。
「金融検査マニュアル」でがんじがらめにしたのも、
まさに前著のとおりです。


不良債権処理を進めるために、銀行自体に
収益力強化と健全性で追い立てたのは間違いのない
事実だったのです・・・・。
それを「失敗」と金融庁も認めて居るのです。


結果的に、顧客本位でない金融業界を作り出してしまった・・・。
つまり、「投資信託の乗り換え営業」によって銀行だけが
儲けに走ってしまったのです。
乗り換え営業は気が付いて規制強化すると、今度は「貯蓄性保険証券」へ
シフトします。
銀行は、外貨建一時払い生命保険をガンガン売りまくったのです。
この外貨建一時払い生命保険の平均手数料はすごいですね。
2015年平均で7%なんだそうです。
まさに「顧客を食い物にしてきた・・・・」


これに気が付いた森金融庁長官はすごいです。


この本で一貫しているキーワードはコレです。


「フィデューシャリー・デューティー」(Fiduciary Duty)
「真に顧客本位の業務運営」と金融庁は定義しています。


ぜひこの単語を覚えて銀行の担当者に言ってください。
必ず「ひるむ」はずです・・・。


もし知らなかったら、必ずこう言ってください。


「キミもう銀行を辞めたほうがいいよ。

『時代の価値観が変わったのに、顧客本位のビジネスモデルを
構築できない金融機関は生き残れなくなる。』

そう金融庁長官は言っているのを知らないの・・・。」




その5 金融機関の社会的地位の向上



本は、「フィデューシャリー・デューティー」
「真に顧客本位の業務運営」を解説した本と言っても
過言ではないでしょう。


金融機関の方々が前著と共に、この本を買って熟読しているそうです。

「フィデューシャリー・デューティーって何だ・・・」

どころか、皆

「これはマズイことになってきた・・・」

そう思っているのだそうです。


でも「真に顧客本位の業務運営」とは銀行に限ったことではないですよね。
普通の一般企業で、「お客様第一主義」とよく叫ばれています。

なぜ、これが銀行では、こんな当たり前のことが、
どんな「マズイことになってきた」のか。


銀行はたいがい、系列の証券子会社を持っています。
銀行ではその証券子会社の投資信託を売っていました。
でも、これこそがこれからは「マズイ」のですね。


お客さんは自分の大切なオカネを預け運用してもらうのです。
お客さんの利益を第一に考えなければならないのですね。

親会社の銀行の儲けを優先してはいけないからなのですね。

「そんなこと言ったって、証券子会社の社長は
たいては銀行からの天下りだし、銀行の出向社員も多い・・・。
親会社のために働くのは当たり前だろ・・・」

そう思って当然だと思うのですね。


でもこれこそが、
「フィデューシャリー・デューティー違反」
ということになるのですね。

分かりやすい例で書いてありました。
例えば、医者や弁護士は、この「フィデューシャリー・デューティー」に
忠実であり、だからこそ社会的地位が高いと。
医者が自分の儲けを優先して
「あなたはがんになりそうだから、毎週来てください。
この高い薬も飲んでください。」
そう言わないと信じていますね。
弁護士さんもその意味で同じです。


だからこそ、金融機関も、これからは社会的地位の向上が
より求められるのですね。
自分のお大切な「虎の子」を銀行自身の手数料稼ぎに
使われたのではたまったものではないですからね。
今後、金融機関の親会社、子会社間の「利益相反」に関しては
金融庁は厳格にチェックしていくのだそうです。
つまりお客さんの利益を銀行がとっていないか、お客さんに
正しく還元されているのか
これが果たしてどこまで実行されるのか。

これこそ森金融庁長官の手腕が問われるところだと
思います・・・・。



その6 国家戦略の至上命令


なかなかこの問題は意味深く難しい問題ですね。
いろいろ熱く語りたいことは多いのですが、そろそろまとめましょう。


この森金融庁長官のかかげる「フィデューシャリー・デューティー」
によって、これからの金融行政はどう変わるのでしょうか?

ハッキリと「二極化」すると著者は言っています。

 

これを成果指標として、顧客本位を競い合う金融機関と、
これに背を向ける金融機関と・・・。
これを「見える化」という選別を促進化することになるだろうと。


当然ですが、それに背を向けた金融機関こそ、
金融庁としては「捨てられる銀行」としていくのでしょう。


森金融庁長官の決意表明が、金融庁のホームページに
出ていますね。
平成29年4月7日に行われたセミナーで
話された内容です。   こちら

この本と共に、この森長官の真意をぜひご理解ください。

「フィデューシャリー・デューティー」という言葉は
どうも言いにくいのか、

「顧客本位の業務運営に関する原則」

という言葉に言い換えています。

現在売れている商品の「貯蓄性保険商品」と「毎月分配型の投資信託」
に対しても強烈な批判をしています。

この両方の商品を、もし「顧客本位の業務運営に関する原則」に
従って販売しない金融機関は、はっきり「叩き潰す」といっていると
思いませんか。


NISA(少額貯蓄非課税制度)についても触れていますね。
NISAの使われ方が間違っていると言っているように
思います。


個人金融資産を、このNISAによって取り込もうとしているのは
ある意味「国家戦略」と言われているところですね。


国民の家計金融資産は1700兆円にも上ります。
その半分以上の900兆円が現預金となっています。
投資信託の残高は100兆円にしか過ぎないのですね。
900兆円もの「眠った資金」をなんとか投資信託に
取り込もうとしているのですね。


何だか天文学的数字でピンと来ないかもしれないでしょうけど、
900兆円が動くことによって、GDPの押し上げ効果は
ものすごいことになるのでしょう。

 

森長官を応援するとともに、税理士としてもNISA問題は
今後も注力していきたいと思います。




(ガンバレ! 森長官シリーズ おしまい)






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