昨年かなり熱く語ったブログがありました。
「破綻 バイオ企業林原の真実」 こちら
非公開の同族経営でありながら日本のトップ企業にもなった
林原がなぜ破綻したのか、というお話でしたね。
ちょうどそのとき、ドラマ「半沢直樹」が
大人気を博して時でしたから、
「林原は銀行によってつぶされたんだ」
「半沢直樹がいてくれたら救えたんだ・・・」
とついつい調子に乗って書きすぎてしまいましたね。
その続編といったら変かもしれませんが、
その林原の元社長であった林原健氏が書いたものが
出版されました。
前回は元専務の実弟である林原靖が書いた、
いわば「暴露本」でしたので、それに対する「対抗本」
ということでしょうか。
昨年林原研究をかなりしたので、つい飛びついて買ってしまいました。
日本最大規模の同族経営の破たん話を、再度検証してみましょう・・・。
冒頭に
「ADRから会社更生法に切り替わり、そのまま我々は退任することに
なった。会社更生の過程で、私たちは社員に真実を明かすことを
禁じられた・・・
そうした真相は誰にも話さず、棺桶まで持っていくつもりだった・・・。」
そう書いてあるのですね。
では「真実はいったい何なんだ?」
ということになるのでしょうね。
でも、その真実をやはり書いておかなければならないと、
どうやら社長は説得されたようなのですね。
「林原一族の特異性にこそ、倒産の真相は宿る」
これをどうしても書きたかったのだそうです。
どういうことでしょうか。
「同族企業の雄」として持ち上げられた林原が倒産されたことによって
同族企業がすべて否定されてはならないと、
説得されたのですね。
日本企業は同族企業の割合が世界の中でも飛びぬけて高いからこそ、
「多くの同族経営の方々にこの失態をぜひ教訓にしてほしい。」
そんな林原元社長のいわば「遺言」でもあるのです。
ぜひその「魂の叫び」を謙虚に学んでください・・・。
その2 典型的な同族企業
林原がなぜ倒産したのか?
これをこの本では、会社更生法の適用申請から
まとめられた「調査報告書」が一部載っています。
元社長としては、納得できない面もあるようですが、
数字に関しては詳細に分析されているようです。
正直驚きます・・・。
しかし典型的な同族企業といえるのではないでしょうか。
ぜひ知っていていただきたいところもありますので、
あえて図表を拝借しようと思います。
これを見てください。
同族企業にありがちな相関図ですね。
銀行から1300億円もの融資を受け、
グループ全体で800億円もの売り上げがあった
林原グループの実態ですね。
真ん中の林原がもちろんグループの中心会社。
林原商事がグループの製品を一手に担う販売会社のようですね。
下の生化研とは「林原生物化学研究所」で、
グループの研究開発部門で、特許ライセンス事業もやっていました。
林原の左、太陽興産はグループの不動産管理会社だったようです。
以上4社が中核企業。
その4社以外にも資産管理会社を作って、
一族の方々が多額の役員報酬など取っていたのですね。
林原健社長は10年間で15億円もの役員報酬を取っていたのですね。
でも本人いわく
「年間1億円に値する仕事をしていたという自負がある」
そうかもしれませんね。
それは仕方がないとして
親族の監査役の方々が億単位で報酬を取っていたのは
事実であったようです。
それよりも
「このグループ企業において、貸付金、仮払金など
多額の資金が流出していた・・・」
これに驚きますね。
東京に茶室を1億5000万円かけて購入した際にも
子供にマンションを購入した時も貸付金・・・。
同族経営の典型だと一税理士としては納得します・・・。
その3 高額報酬の問題
ここで、破たん企業とはいえ、役員報酬の額をあえて掲載した真意を
書いておきましょう。
単なる興味本位でもないのですね。
これは税法的には、会社法的にも非常に興味がある数字なのですね。
林原健氏の下欄の「林原英子氏」は健氏の実母です。
会社破綻後の翌年、94歳のご高齢で亡くなりました。
多分病気がちだったのでしょう。
ということは、そんなにもご高齢で受け取っていた、
3億6500万円もの報酬はやはり高額ではなかったのでしょうか。
また健氏の息子に対しても、監査役報酬として1億円を超える
報酬が支払われているのですね。
税法の立場としては、「不相応に高額な報酬」というのは
問題視されるのですね。
また、ここで監査役の商法的な役割を解説するのは恐縮ですが、
「取締役の業務執行を監査するのが監査役」なのですね。
実母や実子に監査役にして、取締役としてのお目付け役は
絶対に無理なはずですね。
でも破たんした後、この監査役たちは、善管注意義務違反として
損害賠償責任が問われました。
でも現実にはおかしいですよね。
こここそが、「同族企業の問題」ですから・・・。
多くの同族企業は、監査役などは身内で固めます。
実際には何も監督されませんね。
これも驚くべきお話ですが、取締役会が過去一回も開かれなかった。
これでは何も監督できませんね。
実際に報告書では、この監査役の方々は善管注意義務違反には
問われませんでした・・・。
これが中小企業の実態だと思うのですね。
ただ税理士の立場として、高額報酬について言及するなら、
「会社が儲かっていれば」それなりに取っていいと思うのですね。
でも問題なのは、実は林原は儲かっていなかったのです。
長年にわたって粉飾していたのです。
実態は赤字会社でありながら、高額報酬を取り続けていたのです。
ここに林原の破たんの原因があったのです・・・。
その4 日本近代史に残る巨額粉飾
本書76ページから79ページまで
調査報告書の「生の数字」が記載されています。
よほど転載しようかと思ったのですが、
こんな巨額の粉飾は、業界の関係者としてちょっと憚れます・・・。
1989年から20年間分掲載されていました。
最初の年の1989年
売上高は107億9600万円、利益440万円 純資産額6億7600万円
実はこれは金融機関向けの数字です。
調査報告書によれば、実際の1989年は
損益額 ▲14億7200万円 純資産▲62億9300万円
もうこれを見ただけで驚きですね。
金融機関向けの数字とはあまりにもかけ離れています。
ただ1989年という時代背景も説明しなければなりませんね。
まさに「バブルの絶頂期」です。
「土地神話」が全盛だったころです。
あのころは、土地さえ持っていれば、銀行は「決算書なんか見ずに」
貸してくれました。
「本当かよ!」
そう突っ込まれるでしょうけど、
私はその当時「抵当証券融資」で100億単位の融資案件を
やっていましたからね。
まさに時代の生き証人です・・・。
土地担保でいくらでも融資が実行されていた時代です。
林原という広大な駅前の土地を所有する「土地長者」の会社には
いくらでも融資がおりたと思うのです。
多分金融機関は決算書なんか見なかったのでしょう。
でもずいぶんひどいお話ですが・・・。
その後の20年の数字が出ていますが、
金融機関向けの数字は黒字でも、実態はほとんどが赤字。
純資産に関しては、金融機関向けの純資産が245億円もあるのに対して
実際の純資産は359億円
つまり、差し引き600億円もの粉飾!
まさに「日本近代史に残る粉飾」・・・。
その5 誰が真実を知っていたか?
どうもこれだけの巨額の粉飾をしていながら
この元社長は分からなかったというのですね。
巨額の報酬をもらい、かつ、仮払いでも貸付でも
巨額の資金を自由に使えた・・・。
それで会社はそこそこ儲かっていると思っていたようです。
経理については、実弟であった専務に任せていたのは
間違いないようです・・・。
本当に典型的な同族経営ですね。
でもなぜそれに気がつかなかったのでしょうか。
でもこの本には、その原因となった「兄弟間の確執」が
ありありと書かれています。
実の兄弟でありながら、ほとんどコミュニケーションが
取られず、兄弟間の溝が深まっていったようです。
林原家の長男としての絶対的な権威。
林原家の総領としての「神格化」されていたとまで
一方で、対的服従を誓わされた弟としての立場。
結果的に粉飾を続けざるをえなかったようです。
しかし、粉飾の手口があまりにもひどいです。
売上の架空計上から始まって、
土地を再評価して別途積立金に計上、
その別途積立金を特別利益に計上・・・。
損失として落とすべき金額を貸付金として計上・・・。
実に詳細にその手口が明らかにされています・・・。
ちょっとこのブログではアップできませんね。
しかし、そろそろ私の言いたいことをまとめましょうか。
いったい顧問税理士は何をやっていたのでしょうかね。
会計監査人がついていなかった林原としては、
会計の専門家は税理士だけです。
20年以上にわたって粉飾をし続け、
税金を払い続けていた・・・。
この事実を税理士は知っていたと思うのですね・・・。
その6 やはり銀行も・・・
どうもこの粉飾の手口が巧妙で実に専門的です。
しかもグループ間各社にわたって行われていた。
しかも30年近く・・・・。
社内で粉飾をやっていたとしても、
申し訳ないですが、顧問税理士は知っていたと思うのですね。
(このあたり無責任な表現は避けるべきだと
思いますが、数百億円もの粉飾の事実を
知らなかったではすまされないと思うのですね)
少なくとも林原の資金繰りはかなりひっ迫していたと
思うのです。
表面上は、毎期利益が出ている会社なのに、
1300億円もの借入が必要であったこと自体が
おかしくなかったでしょうか。
顧問税理士は日々カネの流れを分かっているはずです。
利益が出ている会社なら、資金は必要としないのですね。
税金払ってもカネが残るはずですから。
ということは、実態は赤字だったからこそ、資金が必要だったのですね・・・。
でも決算書の改ざん自体をどうも納得できないのですね。
融資の実際をご存知でしょうか。
通常は
「決算書とともに法人税の申告書」
を要求されるのですね。
法人税の申告書というのは、見たことない方多いでしょうけど、
損益計算書の最終の数字、つまり税引き後利益から
計算するのですね。
ですので、法人税の申告書(しかも税務署の受理印を押したもの)
と損益計算書はつながるのですね。
会社側で勝手に数字を操作しないように、つまり粉飾しないように
その確認書類として申告書も要求されるのですね。
そんなことは銀行の新入社員でも知っていることなのですね。
それが林原は30年近くも、税務申告用の決算書と銀行提出用の
決算書が何種類も作られていた・・・・。
やはり、顧問税理士だけのせいにはできないですね。
申し訳ないですが、銀行も知っていたのではないかと
思わざるをえないのですね・・・。
その7 発端はやはり相続問題の確執
林原家についてはいいたいことたくさんあるのですが、
破綻された一家のことを、あまり詮索しても申し訳ないので
そろそろまとめましょう。
林原家は日本有数の億万長者とされた一族です。
税の専門家として、相続がうまくいかなかったように
感じます。
そういう意味で多くの同族経営の方々に参考になるお話なのです。
林原家に限らず、創業社長が一代で会社を大きくしたお話は
どこでもありますね。
その創業者が亡くなり、会社の株をどうのように相続するかは
結構重要なことなのです。
元社長は、
「法定相続分に従って、母が半分、残りを子供たちに
平等に分け合うと、経営権を巡って争いが起きる」
そう思って大半を自分で相続しました。
どうもこれが発端のようだったのですね。
このボタンのかけ違いから、どうも兄弟間で
うまくコミュニケーションが取れなくなったようです。
弟が、経理担当役員となると、自分の個人資産管理会社に
会社の資金をどんどん移していったようです。
もうこなってきたら、破たんの道ですよね。
しかも前述したように、粉飾決算の繰り返し借金も膨らませて。
会社がいよいよ危ないといったときに、
会社の膨大な資産を切り売りすればよかったのですが、
それもできなかった・・・。
しかも一方で「相続対策として」創業者の奥様を
借金まみれにしていた・・。
実際に相続が発生した際に放棄せざるを得ないくらいに・・・。
何だかよく分からない「相続対策」ですよね。
もう元社長の「恨み節」ばかりです。
その母親が亡くなった時に、兄が弟に言った言葉。
「おまえが母さんを借金まみれにしたことだけは
許すわけにはいかない。
母さんの葬式もお前は来ない方がいいだろう。
いいか、今後一切、お前と仕事することもない。会うこともない。」
・・・なんだかさみしい結末ですね。
同族企業の方に参考になりましたか。
(経営破たんの真相シリーズ おしまい)