これは「かけねなく」面白い本です。
なんとなく「メガバンクの暴露本」かなと手を取ってみたものの
真実味をおびた銀行内部の初めて聞くお話ばかりです。
「銀行員の生態とはこういうものか・・・・」
と勉強なったと同時に、いろいろと「元メガ証券会社」の営業マンとしての
ある種のノスタルジックな感情に浸りました・・・。
まずこの「メガバンク」というのは、M銀行とあえて書いていますが、
「みずほ銀行」だと誰でも分かりますね。
「F銀行とD銀行とN銀行が統合されてM銀行ができた」
と読んだ瞬間に
「富士銀行と日本興業銀行と第一勧業銀行が統合されて
みずほ銀行ができた」
これは一般常識として皆ご存じでしょう。
問題はこの主人公の目黒課長が、「いつ頃の年代の人か」
なのですが、
「あえて自分も含めて特定されないように年代を変えた」
と書いているのではっきり分かりませんが、
だいたい予想がつきますね。
バブル世代入行組かその前でしょうね。
50代の半ばか、それこそ定年間際の方なのかもしれませんね。
銀行という堅い職業である以上、こういう本を書くくらいなら
いつ辞めてもいいとさえ思っているでしょうから・・・。
バブル入行組というと、私がかつて熱く語った
「半沢直樹」を書いた池井戸潤氏の年代。
「半沢直樹」では銀行員が中小企業を熱き熱血漢で
破綻しかけた企業を再生させるような、
実にスカッとする物語だったのです。
しかし、この本を読むとまさに真逆です。
「本当の銀行員の姿は違うのだ。そんなにカッコよくなく
もっと泥臭いものだった・・・」
著者はそういいたいのでしょうか。
でも本題に入る前に
当時富士銀行と日本興業銀行と第一勧業銀行という銀行に入る方々は
どういう人種だったか想像がつきますか?
私は早稲田大学商学部出身です。
当時、商社か銀行が一番人気でした。
商社マンは「人物重視」の傾向でしたが、銀行はズバリ「成績重視」でした。
大学三年生までで単位が40個くらいあったはずですが、
そのうち優の数が30個以上ないとお話にならなかった。
1次面接で簡単に落とされましたから(内緒)
私は「加山雄三」だったから。
(古いネタ。『可山優三』優の数が三で可が山のようにあった・・)
(これも内緒)
特に日本興業銀行の人気は別格でしたね。
当時の早稲田大学の就職活動の冊子には、まず最初に
日本興業銀行の内定者の体験記があったと思います。
そういう早稲田内でもエリートの方々だけでなく、
当然その他東大など旧帝大系の超優秀な方々がワンサと
入行したのです。
ズバリ書いてありました。
「東大、京大、一橋は文句なしのエリート街道。早稲田慶応が
それに続き、それ以下の大学出身は出世しないという
カースト制度があった。
今なお名門支店であれば東大卒が多かったりする。」
そういう名門銀行同士の「統合」なのです。
しかも大事な表現ですが、「統合」なのです。
「合併」とは絶対言わないところにみずほ銀行の
大問題があったのか・・・
これは読んでいいて皆すぐ気が付くはずです。
その2 システム障害がなぜ起きたか?
2002年4月1日。その名門三銀行が統合する所から
物語は始まります。
いきなりATMが動かない・・・。
なぜシステム障害が起きたのか・・・。
「三行により経営統合は、3年かけて準備が行われた。
三行はこの準備期間中、人事を凍結して、つまり昇格、
昇給を停止して、経営統合を最優先にしようという
『紳士協定』を結んでいたらしい」
「それなのに経営統合を前に第一勧銀は総合職の職位を
引き上げていた」
これは結構な曝露話ですね。
第一勧業銀行は名前の通り、合併された銀行ですからね。
合併の後には、どういうことが起きるか分かっていたのでしょう。
それに対して、富士銀行や日本興業銀行は合併初体験。
「それだけでなく、準備期間から水面下では三行による
マウントの取り合いが始まっていた。社長は誰になるのか。
役員の割合をどうするのか。駅の近くの支店はどちらを
残すのか。」
まあこれはサラリーマン的な発想では当たり前でしょうね。
超一流大学を出て、学閥派閥がはびこる名門銀行に
入行できたのです。
幹部の方々はその出世競争に勝ち残り、部長や役員なった方々ばかりです。
あとは
「ハンコ押すだけの楽な仕事。毎晩接待で毎週接待ゴルフの天国生活。」
サラリーマンとしては頂点を極める寸前だったのですからね。
このあたりが、なぜみずほ銀行が「グダグダ」になったのか
想像つきますね・・・。
ただここで非常にショッキングなお話。
「マウントの取り合いは、システム導入にあったっても
行われた。統合時、人事権を第一勧銀が握ったことで、
システムも第一勧銀のものと切り替えられる予定だと聞いた。
それは富士銀行のものよりずいぶん遅れているシロモノだった・・」
統合から9年目あの3.11が起き、さらなる悲劇が起こります。
またシステム障害・・・。
これで2回も深刻なシステム障害を起こしたのですね。
みずほ銀行は再起を図り、巨額を投じて新システムを開発したのです。
まさに社運を賭けたプロジェクト。
投じた金は4千数百億円・・・・。
東京スカイツリー7本分。
開発規模は「35万人月」・・・。
「人月」とはIT業界の用語ですね。1カ月の作業を人月と呼ぶのです。
ちょっと想像つかないでしょうけど、
システム屋さんのための統合だったのでしょうか・・・。
それでも起きてしまった3度目のシステム障害。
これは最近2021年2月28日。
このシステム障害の責任を取らされたのが
二人のトップです。
ちょうど私と同年代の超優秀な東大法学部卒と早稲田商学部卒。
可愛そうですね。
統合なんてなかったら、楽しいエリート銀行員生活と
素晴らしい余生が待っていたのに・・・。
もう最初から統合なんて無理だったのでは
と思ってしまいますよね。
今までドブに捨てたシステム開発費を考えたら
その資金でもっと他のことができたのではと思ってしまいます。
どうして「統合」なんてしてしまったのでしょうかね・・・。
その3 みずほ銀行の人事評価制度
この本はシステム屋さんが読んだら参考になるとは思いますが
一番参考になるのは「人事評価」でしょうね。
「みずほ銀行はこんな人事評価制度をやっているのか。
だからダメなんだ・・・」
申し訳ないですが、本当にそう思うでしょう。
年功序列の学閥が色濃く残っている名門銀行同士の「統合」です。
人事評価についてもバラバラだったのでしょう。
それを無理やり統合させたのですね・・・。
たとえば、主人公が宮崎支店に赴任して、すぐ人事担当者と面接します。
「支店長の経営方針を説明してください」
これ驚きますね。
支店のボスである支店長を平社員が評価するのです。
これは某野村證券ではありえないお話でしょう。
当時は支店長はまさに「天皇」であり「神様」でしたから。
それを評価なんてできる訳ないですよね。
でも面白いのはその宮崎支店長は完璧主義者。
面接を受けるものは完璧を求められ、想定される質問に
パーフェクトに回答をするように事前に想定問答を
叩き込まれていたのだそうです。
ただかわいそうなことにこの主人公は転勤したばかりで
そんなことはまったく知らなかった。
結局まともに受け答えができなくて
「ずいぶんなことをしてくれたみたいだね。
俺の顔に泥を塗ってくれたね。」
飲んでいた缶コーヒーを投げつけた・・・。
これで評価はバッテンが付いてしまったというのです。
面白いのは投げつけた缶コーヒーは宮崎県農協果汁株式会社の
「テゲナコーヒー」とまで書いてあるのですね。
これだけで本当に宮崎支店長だということがバレますね。
みずほ銀行の人ならきっと「あの人」と分かるように
書いているのです。
よほどこの著者はその支店長を恨んでいるのでしょうね・・・。
もうこの箇所を大学生が読んだら、
就職希望者が激減するでしょうね・・・。
あとみずほ銀行には「リーダー人事評価」というのがあるそうです。
「海外のコンサルティング会社が開発したもので、
課長以上の中間管理職は部下が直属の上司を評価するもの」
「へ〜?」と思いませんか?
毎年秋になると、課長以上に「リーダー人事評価」の実施通達が届くのです。
面白いのは
「自分の直属の部下を10人以上と支店か本部の課長以上の5人を
『自分で選べる』」のだそうです。
これはすごいですね。
本部からその選ばれた部下に
「2週間以内に評価回答をしなさい」とメールが来るのです。
その期間は、誰もが
「妙に優しくなったり、急に理想の上司を演じたりするようになる。
日陰で頑張っている人に声をかけ、体調を気遣い、重いコピー用紙を
率先して倉庫に取りに行く・・・飲みに誘って懐柔しようとする人も
いる・・・」
皆課長はその期間だけ「いい人」になるのです。
でも評価期間が終了すると
「部下の体調など関心もない、コピー用紙が切れたと言って
怒鳴りちらすいつもの課長に戻る・・・」
何だか滑稽な評価システムですね・・・。
著者はこの「リーダー人事評価」で最低点も最高点も取ったことが
あるそうです・・・。
部下にその理由を聞くと「ノリじゃないですか?」
ちょっと驚きませんか?
「『ノリの評価』にわれわれ上司はみな右往左往しているのだった。」
もうここも大学生が読まないで欲しい箇所です・・・。
あとみずほ銀行に融資を申し込むなら「秋」ですね。
理想の上司が対応してくれそうですから・・・。(内緒)
その4 業務監査と持ち物検査!?
半沢直樹では「金融庁検査」というのが
取り上げられていましたね。
「にくたらしい」黒崎検査官が登場して
半沢直樹など、まともな銀行員をやたらいじめるような・・・。
でもあれはかなりデフォルメしていると思うのですが、
実際の銀行の監査というのがあるのですね。
銀行本部による支店の監査ですね。
特に銀行の支店では、
「抜き打ち監査」
というのがあります。
結構勉強になりました。
2種類の業務監査があるのです。
@ 全般監査(2〜3年に1回)
A 現金監査(3カ月に1回)
カネを扱う会計事務所でさえ「現金監査」なんてしませんから
銀行員は大変ですね。
「全般監査」は行員の勤務全般のチェック。
銀行内の内部監査グループが抜き打ちで支店に来るのだそうです。
入り口でまず、持ち物検査。
何だか小学校の時にやられた思いがありますが、
いい年齢の大人がこれをやられるのも敵わないですね。
「生理用のポーチまで開けさせられる」
と書いてありましたが、こういうの今の世の中問題にならないのでしょうかね。
その他結構厳しいチェックのようです。
驚いたのは、
「財布の中に緊急連絡先が書いてあるメモが入っていないと、
緊急事態が発生した時に連絡できない支店だと判断され
減点となる」のです・・・。
ちょっと理解できませんが、「2022年現在、みずほ銀行は
全員そんなメモを持たされてる」のです。
賢い行員が「ケータイに登録しておけばいいじゃないですか?」
と上司に言ったところ、
「万一、ケータイの電源が切れたらどうするんだ!」
とその上司から怒られたそうです・・・。
おそるべしみずほ銀行。
その他、
「監査中、パソコンの画面つけっぱなしで離席で減点」
「机のカギを掛けずに離席で減点」
「机の中に私物の小銭が転がっていたら減点」
どうでしょうか。
ここまでで私ならとっくに「銀行は首に」なっていますね・・・。
著者は、こんな監査を12〜13回も受けてきたそうです。
大変ですね。
おかげで「プライベートでも妙なクセが染みついた」ようで、
自宅でも「パソコンOK?」、「机のカギOK?」となるそうです・・・。
でも、もっと厳しいチェックがあるのですね。
「生計調査」と呼ばれるもの。
「お金にクリーンかどうかを確認するため、行員の生活状況を
チェック」されるのです。
各行員の預金残高、財形預金など、さらに借入金は
当然調べられるのだそうです。
「どうしてこんなことまで銀行に報告しなければいけないの?」
本当に奥さんから言われるそうです。
行員同志の社内結婚なら、奥さん側は理解してもらえるでしょうけど、
そうでない方と結婚した場合は大変でしょうね・・・。
その他、いろいろ書きたいことありますが、
「ぐだぐだ銀行」を批判しているように取られても
困りますから、このあたりでやめておきましょう。
なかなか銀行の実態がよく分かって勉強になりました。
目黒様。今後のみずほ銀行でのご活躍を心からお祈り
申し上げます。
ありがとうございました。
(がんばれ! ぐだぐだ銀行シリーズ おしまい)