
読書の秋ですね。
自分がまったく体験したことのないことが
味わえるのが読書です。
自分の不得意なことも学べますね。
今回のテーマは料理です。
「無駄に」料理教室に通い続けて10年近く。
なかなか料理というものが分からないですね。
特に題名のとおり、「おいしい」ということ。
冒頭出てきますが、
「何かを口に入れてウーンと目をつむり、
やおら『うまーい!』とか、
一口もたべていないのに、やたら
『おいしい!』とか叫ぶタレントさん」
こういう映像を確かに毎日のように
見ていますね。
こういうグルメ番組は多いですから。
見るのは確かに好きで面白がって見ていますが
逆に見せつけられているかのようにも感じます。
「本当に美味しいのかよ!」
と突っ込みたくなりますが、
いかに美味しくたべるかという
まさに「リアクション芸人」が多いからでしょう。
先日あるテレビ番組で、有名なコロッケを実に
美味しそうに食べているタレントがいました。
「こんなコロッケ食べたことがない」
「本当にそうかな・・・」
後日この行列店に行って並んで買ってみました。
でも、実際にはそれほどでもなかったのですね。
こんな経験ありませんか?
プロの料理人がそういう批判を真に受け
その「おいしい」を解説してくれる本です。
著者は村田吉弘さん。
1951年生まれ。73歳。
京都の老舗料亭「菊乃井」三代目。
2013年に「和食 日本人の伝統的な食文化」の
ユネスコ無形文化遺産登録に尽力されるなど
多方面で活躍され、2018年に文化功労者
にもなられている方です。
2023年の広島サミットでも
「総料理長」として腕を振るわれたそうです。
これが菊乃井本店。
ちょっと「怖そうで」!?
入れないですね。
いくらかかるのでしょう・・・。
でも読書はわずか2000円ほどで
料理の神髄を味わえるのです。
特に飲食店をやっている方にこの本を
ぜひ読んでいただきたいですね。
菊乃井本店に行って高級懐石を食べなくても
料理人村田吉弘さんのレシピを教えてくれるからです。
その2 紹介状なしの飛び込み料理人の修行
まずこの方の料理人になる経緯が実に面白い。
料理人の方の自伝というのを見たことも
読んだこともないですからね。
昔大人気だった「料理の鉄人」の道場六三郎さんや
鉄人酒井シェフがどんな修行をされたかなんて
誰も知らないですからね。
まずこの方は冒頭ご紹介した通り、
京都の老舗料亭「菊乃井」の三代目です。
当然物心ついたときから、
「お前が後継ぎやからな」
と育ちました。
大学は立命館に行かれています。
今どきの料亭の後継ぎは大学くらいでていないと
いけないのでしょう。
大学4年生のときに
「フランス行ってフランス料理の料理人に
なろう!」
そう決意して渡仏してしまうのですね。
でも当時(1972年・昭和47年)では
日本で言うフランス料理は要するに「洋食」
なのですね。
「エビフライ」などアレです。
しかしそれを食べたことはあっても
作ったことないのでしょう。
しかも「英語もろくにしゃべれない」
それでフランスに行ってしまったのですね。
21歳の時です。
まあこんな若者そうそういないでしょう。
働く先どころか泊まるあてもない・・・。
「ベンチャースピリッツ」を感じますね。
ただやっかみを込めていいますが、
老舗のボンボンですから、お金はいくらでも
あったのでしょう・・・。
ここでフランス料理を勉強しに鹿児島から来た
というある日本人に出会います。
この記述が一番面白かった。
「毎日雇ってくれるところを探している」
という。
どうやって探すかというと
「狙いを定めたレストランにいくと、
裏口から回って自前のコックコートを
着て勝手に皿洗いを始める」
のですね。
当然
「お前、うちのスタッフじゃないようだが、
誰や?」
となる訳で、そこで覚えたてのフランス語で
「雇ってくれ」
と。でも当然断られるので
「せめて賄いだけでも食べさせてくれ」
それで賄いを食べ終わると
「賄いだけでいいから夜まで働かせてくれ」
そうやって必死に働くと、
「うちは一杯だけど他の店を紹介してやる」
と言われることもあるのだそうです。
それを繰り返しながら修行した・・・。
これこそが「紹介状なしの飛び込み料理人の修行」
これが現在日本を代表するでフレンチ・シェフの一人と
なった上柿元勝さんの若き日の姿。
何だかこの記述だけで感動しました。
ここ読んで、日本で代表する料理人となりたい方は
「菊乃井」の裏口から入って
勝手に皿洗いしいたらいい。
「先生の本を読みました。
賄いだけでいいから
ぜひ働かせてください!」
その3 ツライ修業時代
(名古屋名門料亭 か茂免)
フランスへの留学(遊学)の後、
老舗「菊乃井」を継ぐことを決めます。
これから厳しい修行の道なのでしょう。
ただ、このあと名古屋の名門料亭「か茂免」に
あっさり入社します。
この「か茂免」は調べたのですが、
「名古屋三大料亭」の一つ。
やはりここは菊乃井としてのコネクションでしょう。
あのままフランスで「飛び込み料理人の修行」を
続けていたらまた違った料理人に
なっていたでしょうけど・・・。
ここで「16歳の」先輩に出会います。
でもここで冷静に考えたら、まだ料理の基礎さえ知らない
素人でしょう。
「いじめがあった」
記述がありましたが、「先輩」としては
本当に面白くないのでしょうね。
名門料亭への「コネ入社」、
しかもフランス帰りの「ずぶの素人」の大学卒。
中卒で真面目に修行しているものとしては
当然良い気はしないでしょう。
よく料理人の修行のことを聞きますよね。
私の世代ではショーケンが主人公だった
「前略おふくろ様」(古い??)
中卒の集団就職で田舎から出てきた若者の
キビシイ修行時代。
毎日のように朝から晩までたまねぎを
剝かせられる・・・。
そんなイメージですからね。
そもそも大卒の料理未経験の素人を
どんな名門料亭だって雇うはずがないですから。
ここで、自分のことも思い出しました。
大卒で経理未経験の33歳の元野村證券。
会計事務所に勤めたいと思っても
どこの「名門税理士法人」も雇ってくれなかった・・・。
50連敗くらいしてからやっと入った弱小事務所は
同僚が皆高卒の若い女性ばかり。
手取り10数万円・・・。
先輩は確かに20歳の高卒の方。
毎日たまねぎは剥かなかったけど
単純入力ばかり・・・。
誰でもそんなツライ修行時代をへて
「名料理人」になっていくのでしょう・・・。
その4 ボウズの日々
(露庵 菊乃井 木屋町店の現在のカウンター)
フランス留学(遊学?)から帰国して
3年間名古屋の料亭で修業。
そのあとの「帝王学」が実に面白い。
親から300万円借りて、
「菊乃井木屋町店」を開店。
七坪で七席の小さな店。
「300万円くらいで開業できるか!」
と突っ込みたいところですが
まあいいでしょう。
資金援助ではなくて借りたというからこれも帝王学。
昔調理師学校出て3年くらいですぐお店を
オープンしたお客さんがいました。
やはり料理人としては小さくても自分の店を
持つことこそが夢ですからね。
「たった3年で名門料亭の看板を掲げられるか?」
とまた突っ込みたいですが、いいでしょう。
まあ若い料理人は皆自信だけは持っていますから。
「絶対に失敗しません」
とドクターXの大門未知子みたいなセリフを
必ず言いますからね。
「三年くらいの修行で何でもできる」
つもりでいたようです。
でもお店開いても
「誰も来ない。一人も来ない。」
「一週間ボウズということもあった」
「客席に誰もお客さんがいないのですから、
客席に座って、手に入る料理書という料理書は、
和洋中問わず、片っ端から読み倒しました」
素晴らし経験ですね。
京都の老舗割烹の三代目です。
2023年の広島サミットでも
「総料理長」として腕を振るわれ
文化功労者にもなられた方が
開店当時は誰も来なかったのです。
ふと25年前の私を思い出しました。
開業二カ月目。私もボウズでした。
やることないから、中野南台にあったTKC租税資料室に
いって朝から晩まで、書庫にあった「開業体験記」を
むさぼり読んでいたことを思い出しました・・・。
その5 ボンを育てあげる京都独特な文化
(京都のたん熊)
「開業時一日の売上が3500円とか4500円」
ここは飲食店関係の方は是非読んでほしいところですね。
「営業時間を夜中の2時まで延ばしていた・・・」
「夜のご商売の方に500円のさけ茶漬けを出していた」
いまや名割烹料理店。さけ茶漬けだって
5000円?はするのでしょうけど、
その500円のさけ茶漬けが原点なのですね。
ただここからの記述は実に京都らしい。
「そうやって京都の文化が守られているのか」
感心します。
「お前が生まれる前から菊乃井の客や」
という常連のおじいさんが通ってくれ
あれこれ注文を出します。
京都で老舗の若旦那を「ぼん」と呼ぶそうですが
その「ぼん」を助けあう文化があるのですね。
特に転機となったのは「たん熊」の店主が
毎日のように店に来てくれるようになったこと。
調べたのですが、「たん熊」とは
京都では有名な老舗店。
その師匠から
「自分なりの料理を作らんかい」
と言われたことで変わったようです。
(天竜寺 平田精耕老師)
また天竜寺の平田精耕老師もよく来てくれたそうです。
天竜寺と言えばちょうど今頃京都の紅葉の名所の
有名寺院ですね。
(天龍寺の紅葉)
平田老師は京都大学哲学科卒。
インド哲学と仏教哲学を学び、
さらにドイツ留学までされた方。
そんな高僧との人間的な触れ合いが実に面白い。
料理人は哲学にも素養がないとなれないのですね・・・。
他にも京都の美食宿「美山荘」の
経営者中東吉次氏。
京都老舗の「京都瓢亭」の14代目橋栄一氏。
皆師匠なんだそうです。
京都というのはそれだけ老舗のお店の「ぼん」を
助け合う文化があるということなのですね・・。
これは東京の料理人には簡単には
真似のできないことかもしれないですね・・・。
その6 京都の悪しき現状を憂う
コロナも落ち着いて、京都にはインバウンドや
東京からワンサと押しかけて活況ですね。
これに対して結構テキビシイ。
ここがまた面白い。
「これは以前からですが、私らは外国人客を
4割以上取らないことにしている。」
「外国人を相手にした方が店は儲かります。
当然の話です。」
「京都でも若い子がいきなり独立して、
8席とか10席ですよ。
それもいきなり2万5000円」
「最初は1万円5000円でやれと言いたい」
「わざわざやって来る東京のお客さんと
インバウンドだけ」
ハッキリ書いていませんが、
今はそういう
「なんちゃって京都料理屋」
ばかりがかなり儲かっているようですね。
京都の老舗料亭より高い店は、
そもそも京都人は行かないのですね。
「高い方が上等だという価値観」
「ありがたがって大金を払わせる」
ようなことは
料理屋の良心としてできないのでしょう。
「味の分からない」インバウンドや東京人(失礼!)
をだますことにもなりますから・・・。
老舗の料理屋としては面白くないところなのでしょうね。
でもここまでハッキリ書いてありました。
「よその老舗の連中よりも高い値段でやって、
東京の人しか着ていないけど、それでいい、
京都の人は相手にしませんというスタンスなら、
別に京都で商売しなくていい、
よそでやったら」
独立して若い料理人を「一代目」と
名指しで批判しています。
「『一代目』は祇園のクラブに毎日のように
通っている」
「一台3500万円のフェラーリを買っている」
しかしそういう店は広告も上手いから
SNSで騙されるお客さんも多いのでしょう。
そうなると予約もとれない大繁盛店になる。
「『予約が取れない』ことを自慢する向きもあります。
でも、予約が取れない店=いい店。ではない」
「予約が取れない店」
「普通の人が普通に入れない人ってやっぱりどこかおかしい」
そうでしょう。
現在の京都を老舗の三代目として
この悪しき現状を
心から憂いているのでしょう・・・。
その7 居酒屋みたいな料理屋が多すぎる
(牛肉の上にうにキャビアのせ)
現在の料理界の強烈な批判。
ここは料理に携わる方にじっくりと
読んでいただきたいですね。
京都だけに限らないお話。
東京に対しても強烈な批判。
「東京の鮨屋の、一人5万円とか7万円と
言われている事情」
「食べに行く方も、値段が高いのが上等と
思っているのかもしれない」
これ結構当たっているのでしょう。
これに対してバッサリ。
「『料理』やなくて『価格』を食べている」
「鮨屋の『あて』のようなものばっかり
いくら並べても、それでは『懐石』には
ならん。それでは料理屋にはならんねん」
「『懐石』には起承転結がある。
一つのルールがあって、そのなかで料理を
作るのが『懐石』で、『食べ物』を並べて出して、
それがうまければよかろうというのは
料理屋やなくて居酒屋や。
居酒屋でよければそれでよいけど、
お前は、何になりたいねん」
「居酒屋みたいな料理屋が多すぎやないか」
「焼いた牛肉の上に生うにのせて、
その上にキャビアをのせる」
そういうのを見て「うわー、すごーい」
と喜ぶ客がいる」
これ「牛肉 うに キャビア」と検索したら
写真の料理がでてきました。
本当にあるのですね・・・。
「この魚は瀬戸内の何とかいうところで獲れた・・・」
料理以外の講釈が多すぎる。
高いお店はそういうところ多いです。
有名料理店・・で修業した・・とか。
「東京では貧富の差が激しい」
こうなるともう東京の金持ちは舌が肥えていない
ようにも思えてきますね。
本当に何だか止まらなくなりました・・・。
本当は「おいしいって何やろ」
という箇所が一番興味深かったのですが、
料理教室10年通っただけの「素人」が
講釈しても申し訳ないので
このあたりにしましょう。
最後に本家本元の菊乃井の料理。
これが本当の懐石らしいです。
ちょっと「お高い」と思う方は、
「菊乃井無碍山房」の「菊乃井のお弁当」
これ5000円(税抜)!!
これを味わいながら
「おいしいって何やろ」
と考えてみてください・・・。
(がんばれ! 料理界の文化功労者シリーズ
おしまい)