その1 女性国税調査官第一期生
たまには税理士らしい「税金ネタ」。
著者は飯田真弓氏。職業は税理士です。つまり、同業者なのですね。
ただこの方の経歴が面白い。
1982年京都の高校を卒業したあと、税務署に就職。
初級国家公務員女子1期生なのですね。
つまり、ちょうどあの頃制定された「機会均等法」を受けた、
初の女子採用。
本当なら、そのまま勤務していれば、
「女性初の税務署長 第一号」
になっていただろうというお方なのですね。
しかし、26年間税務署で特に「国税調査官」を勤め上げ、
数年前に退職され、税理士となられたようです。
どうして、税務署長にならなかったか、または、「なれなかったか」は
この本に詳述されています。
税理士の本というより、「税務署の内情バラシ」の本なのですね。
そういう意味で、「経営者に役立つ本」?なのでしょうか・・・。
現在、国家公務員の「秘密保護法」が騒がれていますね。
税務署内のデータが特定機密にあたるかどうかは、
「政治ネタ」なので、あえて触れませんが、
個人的にはものすごい「機密事項」なのでしょう。
こうやって税務署を退職された方が、
「実は税務署ってこういうところだったのだよ・・・」
と書くことさえ、現在は厳しくなってきているのでしょう。
税務署OBで税金ネタの作家では、大村大次郎氏が有名ですが、
あの方とはまったく違う書き方です。
なかなか文章うまくて、あさり読めてしまいます。
内容も、「DJポリス」や「半沢直樹」など、時事ネタ?
までふんだんに盛り込められていますから。
「税務署ってこういうところなの・・・」
「税務署の人ってこんなこと考えながら、毎日すごしているのか・・・」
我々業界人でさえ、妙に新鮮に覚えます。
でも、飯田税理士みたいな方がぜひ税務署長になってほしかったと
個人的には思います・・・。
少しだけご紹介していきましょう。
その2 税務調査で言ってはいけない言葉
では元税務調査官の暴露話で一番面白かったのは、
税務調査官を「燃えさせる三つの言葉」
これは知っておいた方がよいですね。
これは税務署内の「特定機密」ではないでしょうか!?
@「そんな何年も前の話、覚えている訳ないだろ!」
A「全部顧問税理士に任せているんだ!」
B「勝手に調べてくれ!」
これは私の経験上でも何度も聞いた言葉なのですね。
「なるほど!」と妙に納得しました。
@「そんな何年も前の話・・・」これは調査官が、「確信犯」だと
決めつけてしまう禁句なのでしょうね。
調査官は、こういうことを言い放った社長の目線や態度を
つぶさに見ているはずなのですね。
その瞬間に、「ウソを言っている・・・」と・・・。
A「全部顧問税理士に・・・」これもよく聞きます。
「経理のことはさっぱり分からなくて・・・」
とか「会計事務所の担当者の〇○さんに全部お任せで・・・」
これも言ってはいけないのですね。
「実は知っているのです・・・」と言っているようなものです。
B「勝手に調べてくれ」これは最悪のようです。
「まずい所に眼をつけられた。バレナければいいが・・」
そう裏読みされてしまうのですね。
こう考えると、税務調査官は心理学のエキスパートなのですね・・・・。
ではもう一つ、税務署内の最高の「特定機密」のお話。
国税庁の「KSKシステム」の解説がありました。
これはまさに国民全体の「特定機密」なのでしょう。
どういうことかというと、「KSKシステム」とは、
「全国524もある税務署内の情報を一元的に管理されたネットワークシステム」
のことなのです。
当然私は知っていましたが、一般の方は「KSK」なんて知らないですよね。
日本全国のすべての申告書がこのシステムで把握されています。
しかも、申告書以外の個別の情報を税務調査官が
一つ一つ打ちこんでいくのです。
それが税務調査で活用されているのですね。
これは詳細に解説されていました。
すごいですね。国民全体が「税の取漏れ」ないように
キッチリ把握されているシステムなのです。
このKSKのセキュリティーは「超厳重」なのでしょうね。
そういえば税務調査官は調査でノートパソコンなんて
絶対持ってきません。
それどころか、書類さえ持ってこなくなりました。
こういう情報が国民に漏れたらとんでもないのでしょうね。
KSKに接続するノートパソコンを、万が一酔っぱらて、
電車の網棚に忘れでもしたら、
きっと「国税庁長官が責任とって辞任する」くらいなのでしょう・・・!?
その3 調査官は経営者の人柄を調べる
「調査官は帳面でなく人柄を見ている」
これも、この本で面白いと思ったところです。
最近の若い調査官などは、挨拶もそこそこに、
いきなり帳面を見始める人も多いのですね。
これは以前「雑談力」で取り上げたお話ですね。こちら
雑談をしながら相手を観察する能力。
これは税務署だけでなく、あらゆるところで
必要とされるのでしょう。
この著者はこうハッキリ言っています。
「税務調査はその経営者の人柄を調べに行くもの」
だからこそ、経営者は調査官に対して、うそをつかず誠実に
対応していれば、それで十分なようです。
「目は口ほどにものをいう」
本当に不正をしている経営者なら、調査官は目を見て
分かるそうです。
著者はなかなかすぐれた調査官だったのでしょうね。
ところで、税理士に対してもかなり批判的なことも書いています。
税理士の悪口になるので、ここではアップしません。
「なるほどそうなのか。税務署はそういう目で見ているのか。」
これは参考になったとともに、少しだけ反省もしました。
最後に税務調査が行われる確率について
説明していました。
平成18年のデータで、100社あって、わずか5社ほどなんだそうです。
ということは、95%の普通の会社には、めったに税務調査はないと
いうことなのですね。
では、「どういう会社なら大丈夫か」は、参考になりました。
「日頃から社員とコミュニケーションを大切にしている会社」
「社員を大切にしている会社」
「社長が自らをきちんと律している会社」
はまず選ばれないそうです。
これも「なるほどな」と思いましたね。
3つの条件をよく考えてみてください。
一つでも当てはまらないと税務調査がありそうですね。
もしそうなら、この本を読んで対策をしていただくか、
有能な税理士をお探しください・・・・。
(ガンバレ! 女子1期生調査官シリーズ おしまい)