その1 土屋専務書下ろし「ワークマン経営術」
先日このブログでご紹介したワークマンでしたが、 こちら
あの続編のような本が出ましたね。
前回はライターさんが書いた本でしたが、今回は主人公の土屋専務の書下ろしです。
専務ご本人の名前で出す以上、間違ったことは絶対書かないでしょう。
税理士会の「ワークマン研究の第一人者」として、(!?)
これは「スルーする」わけはいけませんね。
早速購入して読んでみました。
かなり内容はかぶりますね。
でも「データ経営」などご本にしか分かりえないようなことが
詳細に書かれております。
これはワークマンを知る上では貴重な資料ですね。
ただ出版元はダイヤモンド社ですね。
同社が主催する「ダイヤモンド経営塾」という経営者向けのセミナー講師を
土屋専務が最近務めたようで、その時点で出版のお話があったのでしょうね・・・。
ワークマンの経営学をもう一度確認する上で良い勉強になりました。
前回も申し上げましたが、「コロナ後の中小企業の経営」に
何か参考になると思います。
では早速その「しない経営」
3つの柱がありますね。
第一番目がうれしいですね。
「社員のストレスになることはしない」
・期限
・ノルマ
・頑張る
どうでしょうか?
「本当?」と思う中小企業の経営者もいるでしょう。
でも「物販なんだから、納品日や開店日など相手と約束している期限は
どうするの?」
実際にワークマンでは
「開店準備のために残業が増えてしまいそうなので、
開店を一週間遅らせました・・・。」
それも認めているそうです。
では営業にノルマはないのでしょうか?
土屋専務の前職は三井物産です。
「多すぎる目標、過大なノルマが当たり前の世界にいた・・・」
それなのに、ワークマンではノルマを撤廃したそうです。
「短期目標をいくつも掲げるほど会社はダメになる。」
「社員に過度なプレッシャーをかけても、いいことは一つもない。」
どうでしょうか。
これは私自身妙に納得するのですね。
私も「ノルマ証券」というところにかつて在籍した経験がありますからね。
土屋専務に「アッパレ!」をあげたくなりました・・・・。
その2 「ノルマ」もない「頑張る」もない?
「ノルマ」がない「頑張る」をしない・・・
などというと、それでも理解できない経営者も多いでしょうね。
この本で「ハッと」した点です。
ここだけでも読む価値があります。
当事務所は駅前ですので近所に不動産会社がたくさんあります。
「困難に立ち向かいます!」
「失敗してもあきらめず続けます!」
そんな大声で唱和しているのが毎朝聞こえます。
営業の会社ですから「頑張る」を営業マンに強要しているのでしょう。
どこの会社でも営業マンは上司と相談して「目標」を決めますね。
「目標」とは名ばかりで会社が決めた「ノルマ」なのですね。
「自分で決めた目標なのだから必ず達成しろ!」
「達成するまでは帰ってくるな!」
営業マンは「自分で決めた・・・」何て言われると非常にツライのですね。
きっとどこの会社もそうなのでしょう。
これは、30数年前の「ノルマ証券」においても日常風景でした。
いまだにあるのでしょうね・・・。
でもそれが「会社をダメにする」と土屋専務は気が付いたのです。
それはどういうことでしょうか?
これもこの本繰り返し読んで理解できました。
「2−6−2の法則」
はご存じでしょうか?
どのような組織でも「上位が2割、中位の6割が普通、下位が2割」
と言われるのですね。
上位2割が優秀でノルマや期限をキチンと守り、
会社の収益の大方の8割を支えるのです。
上位2割に感化され、中位6割を少しでも活性化することが
「昭和の組織論」でしたね。
上位2割が、出世し支店長になり、部長になり役員になっていく・・・。
下位2割は極端なお話として、ノルマを課して潰して切捨て・・・。
某ノルマ証券もそうでしたし、専務の在籍した三井物産でも
「ワークマンに来るまでは上位2割を重視するタイプだった・・・」
と正直に告白しています。
しかし、それは上場企業である商社や証券会社でのお話なのですね。
明らかに中小企業は違うのです。
そこに気が付いたというのは、本当に優れた経営者なのでしょうね。
天下の三井物産なら、ほっておいても東大卒の頭のいいしかも営業もできる
スーパーマンが入社して来るでしょう。
でも中小企業ではそんな人は絶対に望めないからなのです。
「『2−6−2の法則』どころか『1−4−5の法則』さ・・・」
そう嘆く中小企業経営者も必ずいるはずですから。
「中小企業では、中下位8割をいかに活性するか」
それが最重要だと土屋専務は気が付いたのです。
そのために、「ノルマ」や「頑張る」をやめたのです・・・。
その3 中下位8割をいかに?
「中小企業では、中下位8割をいかに活性するか」
まさにこのコロナ後の中小企業の目指す方向だと思いませんか?
昭和の古典的な営業の会社ですと(どこと言いませんが・・)
「ウチの営業は本当にダメだ!全部営業マンを取り替えたいくらいだ・・・」
よく聞く社長の嘆きです。
期限を決めノルマを与えてハッパかけます・・・。
営業マンに「頑張る地獄」を強いるのですね。
挙句の果ては離職率がまた高くなっていきます。
そうなっても
「また募集すればいい・・・きっと上位2割の優秀な人が来てくれるさ・・・」
その程度しか思わないのです。
社員にストレス与えることが社長の仕事だと勘違いしているからです。
土屋専務はこう書いています。
「全国の経営者に問いたい。
死ぬほど頑張って四半期売上を達成して何の意味があるだろうか?」
ハッとする経営者もいるかもしれませんね。
(多くの経営者はそれでも気が付かないのです。)
でもこうも書いてありますね。
「頑張っても意味がない」
そう言われても余計に理解ができないのでしょう。
営業畑出身の社長ならなおさらです。
もっとハッキリ書いてありました。
「特別にできる人や異常に頑張った人しかノルマを達成できない
ような仕事のやり方では、そもそも他の人を引き上げない」
これで分かりますね。
上位2割だけ重んじる会社にしたら、中下位8割は絶対成長しないのです。
ここは中小企業として、ぜひ学ぶべき経営術なのでしょう。
ただ大事なことは書かれていました。
「ノルマがないからと言ってダラダラやっていいという訳ではない。」
「不思議なことに『いつでもいいですよ』『時間がかかってもやってくださいね』
といって仕事を任せたケースで、想定以上に時間がかかったことはほとんどない」
ココですね。多くの経営者が疑問に思うところです。
「ノルマや目標がないと営業マンがさぼってしまうのでは?」
不安になる経営者は考えるのでしょう。
ハイ。
ここがワークマン式「しない経営」の神髄ですね。
もちろん一番大事なのは、経営者の考え方ひとつです・・・・。
その4 昇給するという劇薬
「ではその中下位8割をどうやって戦力にするのですか?」
ノルマや目標がなくても働いてくれるのでしょうか?
多くの経営者が悩みまた嘆くところですね・・・。
土屋流経営学をぜひ学んでください。
「人は夢で動く」
ちょっと理想論かもしれないですが、土屋専務は真顔で言っています。
「会社の夢を社員が理解すること」
でもここは経営者ならすぐ気が付くところなのですね。
「夢、希望、興味というのは人それぞれ違うのです。」
巨人の星の星一徹のように
「飛雄馬よ!あの星に向かっていくのだ・・・」
とはならないのですね。(ちょっとたとえが古すぎる??)
でも50年前のスポコンアニメの世界ではあったかもしれないのですが、
この令和の時代にあって、新人類たちには受け入れられないかもしれないのですね。
でもこの土屋専務は、まず「劇薬」を社員に与えます。
「給料の増額をコミット」として社員の士気を上げます。
「給料100万円アップ」を公約するのですね。
これはどんな中小企業でも簡単には真似のできないことでしょうね。
「多くの会社は業績や事業の夢については雄弁に語るが、
社員の夢や報酬については雄弁には語らない。」
しかもワークマンは上場企業ですからね。
株主の利益を損ねることにはどんな経営者も慎重になるのです。
でもこれを公言した経営者は、なかなかいないのでしょう。
「にんじんをぶら下げて、」中下位8割の心に火をつけるのです。
ただこれだけではないのです。土屋専務の経営信念に共感しました。
これは中小企業経営者には真似てほしいところです。
「何が何でも社員を育て抜くつもり。組織は社員以上には成長しない。」
「外部コンサルタントには頼らない。」
「経営幹部クラスの中途採用は絶対にしない。」
これ聞いた社員は鼓舞しますね。
ある日突然上司の机に、ライバル会社から引き抜かれた方が座っていたら、
しらけるのは既存の社員ですからね。
トップ2割だけでなく、中下位8割のレベルアップのためにも、
施策を打つのです。
・得意分野の仕事をやってもらう
・得意分野がない場合には得意分野をつくる
・長所をほめて自信を持ってもらう
どうですか?
ワークマンの中途採用に応募したくなってきましたか・・・。
その5 スタープレーヤーはいらない
土屋専務の目指すワークマンとしての経営は
「凡人による凡人の経営」
簡単に言えば
「スタープレーヤーはいらない」
ということなのです
これはコロナ後に流行りそうな気もしませんか?
社員を大事にしながら、標準化を進め、しくみをつくるのです。
そうなると
「人が入れ替わっても簡単には崩れない堅牢な組織」
に変わるのですね。
これは勉強になりましたね。
グローバル企業の主流の考え方なのだそうです。
因みに日本でそれを実践しているのは
「ユニクロ」なんだそうです。
ただ一方で
「トップダウン型の経営」
は日本ではまだまだ圧倒的ですね。
カリスマ経営者の元で働くと、社長の言うことは「絶対」なのです。
「死んでも成し遂げる」
という雰囲気がありますよね。
これは企業にとって良くないというのです。
ワークマンの目指すのは「トップダウン」ではなく、
「ボトムアップ型」の経営です。
どうでしょうか?
分かるでしょうか?
昭和の時代を生き抜いた頭の凝り固まった経営者では、
絶対受け入れられない考え方なのかもしれませんね。
「死んでもやる」
「頑張る」
を企業のNGワードにしたらどうやら企業は変わりそうです。
ただ従業員に対してのヤラセ方ですね。
「何をやるかは経営が決め、どうやるかは社員が決める」
社員に任せることで期待以上の成果が得られたのです。
「エクセル経営」によるデータ活用にしても
「エクセル経営」を導入することを経営が決め、
それを社員に自由にやらせたことで、社員全員に浸透し
全員参加型の経営が可能になったというのです・・・。
その6 ワークマン流「両利きの経営」
もう一つこの本の柱となるのは「両利きの経営」の紹介。
早稲田大学の入山教授の「世界標準の経営理論」の中から
いまや最先端の経営理論なのだそうです。
この本とともに、入山教授の訳による「両利きの経営」は現在ベストセラー
ですね。
この本の後半はその著者である入山教授との対談まで
あります。
対談の冒頭、土屋専務が
「『世界標準の経営理論』は私がこの10年間で読んだ300冊の
ビジネス書の中で、一番すごいと思った本です。」
とべた褒め。
早速両書とも買って読み出しましたが、なかなか難しい。
もうカタカナばかりでちょっとハードです・・・。
そのうちまとめて発表しましょう。
「両利きの経営」とはこの図が分かりやすいでしょうか。
「知の深索」と「知の深化」という単語が難しいでしょうか。
「知の進化」ではなくて「知の深化」という点にまず注目してください。
つまり、「知の探索」 × 「知の深化」 = 「両利きの経営」
「基本コンセプトは、『まるで右手と左手が自由に使える人のように、
『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営』」
これがなぜ土屋専務がべた褒めしたかというとまさにワークマンの
経営そのものだったからです。
ワークマンは、もともとは作業服という特殊分野で「知の深化」型の会社
だったのです。
そこに、土屋専務という、いままでワークマンにはいなかった
「ジャングルファイター」のような「知の探索」型の人間が入ったことにより
イノベーションを起こし、急成長したというのですね。
だからこそ、
「ワークマンこそ両利きの経営だ!」と土屋専務が
入山教授の前で自信をもって言っているのです。
すごい自信だと思いませんか。
どうでしょうか?
なかなか「両利きの経営」は難しいかもしれませんが、
ワークマンがイノベーションを起こしている理由が
分かりますでしょうか。
「しない経営」これはアフターコロナのキーワードに
なるかもしれませんね。
(ガンバレ! ワークマンシリーズ おしまい)