その1 町工場の星 




町工場の娘




私の「女性経営者研究」はまだまだ続きます・・・。

 

この春一押しの本。
大田区にある「ダイヤ精機」という会社ご存知でしょうか。
テレビで何度か取り上げられていますからね。


一言でいうと
「バーコードによる生産管理システムの一元管理で経営改善」


何だかよく分からないですか?
この経営改善によって
「町工場の星」
とまで称賛されています。


ただ、テレビで見かけても「工場の生産システム」なんて興味ない方は
たぶん見逃していたのでしょう。


またテレビでは「32歳の主婦から突然社長になった」
ということも取り上げられていますね。
この本を読むとそのいきさつがよく分かります。


私も仕事柄、「2代目経営者」、「3代目経営者」の方に
接する機会が非常に多いです。


「どうして社長になったのですか?」


必ずお聞きしますが、その理由は千差万別。いろいろです。


この社長は急性白血病で亡くなった父親の創業社長から
突然、バトンを引き継きます。
社員は27名。32歳の社長より年下はわずか3名。
素人社長が奮闘します。
リストラを慣行し社内で孤立・・・。
リーマンショックで一時は倒産の危機を乗り越え、見事復活・・・。


「こんなことが本当にあるのか・・・」

感動します。
特にそういう引き継いだ社長さんに読んでいただきたい本ですね。

まさに副題どおり。


「ジリ貧会社を再生した勇気と知恵と笑顔の物語」


心から勇気が湧いてくる本です。





その2 跡継ぎの生まれ変わり 



まず主人公は諏訪貴子氏。1971年生まれ。
創業者で父親である諏訪保雄氏が
東京オリンピックが開催された1964年にダイヤ精機を
創業します。
ダイヤ精機をなぜ創業したかという下りが泣けます。


貴子氏には10歳上の兄がいました。
その兄が3歳になった1964年に白血病にかかってしまったのですね。
その治療費を工面するために、急きょ町工場を始めたのです。
今も昔もそうなのですが、不治の病といわれた白血病の治療費は莫大です。



時はまさにオリンピック景気。


「カネを作るために工場を始めた」


なんて今では考えられないお話ですね。
予想通り工場は大繁盛したのですが、その兄は貴子氏がうまれる直前に
亡くなってしまったのですね。


その影響からか、その「兄の生まれ変わり」として育てられたのですね。
このあたり、中小企業の承継問題に参考になるところです。
どんな会社にも起こりうることでしょう。
父親の育て方にまた泣けます・・・・。


「大学は工学部以外いかせない。」


と言われた貴子氏はしぶしぶ工学部へ。
大学卒業後も、父親の勧める取引先のメーカーへ
縁故採用されてしまいます。


だが父親の意図と反してたった2年で寿退社。
やはり貴子氏はもともと商売を継ぐ気はなかったのですね。


結婚後長男を生み、やりたかったブライダルの司会者に
なります。


結局、後継者不在のままダイヤ精機は進みますが、
その後の不景気で売上半減。
経営はピンチに陥ります。


さらに保雄氏の急死・・・。
なんだかありがちなドラマのようです・・・。





その3 家庭の主婦が引き継いだとたん・・・ 



ダイヤ精機はバブル期売上は8億円。
しかし、その売上が半分以下の3億円。
しかも従業員が27人もいてそこで創業社長の急死。


ここが一番大事なところだと思うのですが、
ここで会社は倒産してもおかしくなかったのでしょうね。
貴子社長のご主人は同業者。しかも海外勤務も決まっていたくらいですから
かなり優秀な方なのでしょう。
本来なら、その方が継ぐべきだと周りも思ったのでしょうけど
それをあえて娘が引き継ぎます。


「どうしてだろう?」


よく読むと分かります。
たぶんこの当時この会社には、かなりの借金があったのでしょう。
顧問弁護士が出てくるくだり。


「失敗しても命まで取られるわけでないから、
やるだけやってみたら。ダメだったら自己破産すればいいのよ。」


事業承継で、候補者が一番逡巡するところがここです。
誰でも借金付の会社なんて、引き継ぎたくないのですね。


そこで一番驚いたのが銀行です。
すぐさま合併話を持ってきます。
ただ条件は


「社長にはお辞めいただきます・・・」


まあ、銀行なんてそんなもんなのでしょう。
ついこの前まで家庭の主婦だった方に
社長の仕事を担う力量はないと、絶対判断したのでしょう・・・。






その4 3年の改革を実行 


社長に就任するとすぐさま会社を改革していきます。
ここに「素人社長」のすごさがあると思うのです。


「3年の改革」として、ダイヤ精機を変えていきます。
これは参考になるお話ですね。


1年目は「意識改革の年」。

社長自らが講師役となって毎週のように「座学」


学ぶことは、

「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」
「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」
「QC(品質管理)」


などなど・・・。


大企業なら、こういうことは新入社員教育でやりそうなお話ですね。
でも中小企業にはそんなカルチャーも風習もない・・・。


当然、


「なんでそんなことするんだ!」


社内からブーイング。
社長はその葛藤と戦います。


どうでしょうか。中小企業の経営者にとって学ぶべきことではないでしょうか。
当たり前のことを愚直にやるのですね。


さらに社内を年代別にチームに分け、QC勉強会。


「無駄をなくそう」
「効率を上げよう」


という意識改革させていったのです・・・。





その5 経営方針の策定 




意識改革の次にしたことは、「経営方針の策定」
これがなぜ必要かは非常に参考になります。
諏訪社長は二代目だからなのですね。
お分かりになりますが、ここをよく読んで考えていただきたいのです。


創業者ならカリスマ性があります。
社員の誰もが畏敬の念を抱く存在です。


二代目には、残念ながらカリスマ性はないのです。
二代目は創業者の下で働いた人が納得し、ついて来てくれるような
方針を新たに掲げる必要があったのですね。



そこで1年がかりで作った経営方針は


「ものづくり大田区を代表する企業となる」

「超精密加工を得意とする多機能集団である」


経営方針については、京セラの稲盛さんがよく言っていることですね。
経営方針がなぜ必要かは


「社員とベクトルを合わせる」ために絶対必要なのだと・・・。



もう一つ、二代目社長の工夫は、
創業者が「トップダウン」なら、二代目は「ボトムアップ」。


ご紹介した職場をチームごとに分けて勉強会をさせたことも
その理由なのですが、現場社員の意見を吸い上げる努力をしたのです。
それに必要なのは、当然コミュニケーション。


笑ったのは、諏訪社長は、
「大阪弁の日」や「京都弁の日」と決めて
慣れない大阪弁などを使って、社員とコミュニケーションを取ったこと。


こんな社長、いないですよ。
社員の笑い声が聞こえてきそうですね。
こんな明るい社長なら社員はついていきますね。
驚いたのは、引き継いでから社員が辞めなかったこと。
辞めさせず、社員を教育しボトムアップしていったのです・・・。







その6 生産管理システムの導入 



このダイヤ精機は何度もマスコミに取り上げられました。
必ず報道されるのが次の二つ。
「オリジナルの生産管理システム」と「社長と新入社員の交換日記」。


「生産管理システム」は、テレビ的なお話なので、必ず紹介されますね。
バーコードで簡単に読み取り、社内の生産管理を一元化できるもの。
「すごい! こんなの自社開発したのか!」
と感動してしまいましたが、この本を読むとネタバレ。
既製品を600万円で購入したと分かりました。


これは会計の専門家として、これは勉強になりました。


それまでのダイヤ精機が生産管理システムとして使っていたものは、
「売掛金」と「買掛金」の管理専用。
これは申し訳ないですが、どこの企業でもあるシステムですね。
今まで受注後の「進捗管理」はしてこなかったのです。
そこで、会計的な目的より、「進捗管理」、「原価管理」に絞り込んで
ソフトを買い替えたのです。
その結果、購入したものがテクノア社の「TECHS-BK」というソフト。


生産状況が常に管理できるため、現場管理者の管理業務が減り、
ものづくりに、より専念できるようになっただけでなく、
取引先との関係強化になったようです。


さらに、


「新たに導入したシステムは、材料費、外注費、作業工数など
を入力することで、製作完了後に製品の原価を計算することが
出来るようになった・・・・」


まさに原価計算なのですが、費用対効果という点では、
600万円の支出により、営業利益率が5%も改善したのです・・・。






その7 年商3億円で原価計算 



中小企業の原価計算の問題は、税理士として大事なお話なので
ここは詳しく突っ込んでおきましょう。


ダイヤ精機の当時の年商は3億あまり。
月商で約3000万円ですね。
でもこれは驚いたのですが、毎月の出荷製品数は1万点。
ということは1品目あたりの売上は数千円なのですね。
ダイヤ精機の商売の特徴は「多品種少量生産」


つまり、


「3000円稼ぐのにいくらかかったか?」


これを計算することこそ原価計算。


年商3億円規模の中小企業でそこまで取り組む会社は
少ないのでしょう。現実にかなり面倒ですから。


それをあえて600万も費用をかけて、原価管理・進捗管理システムを
構築します。


経営者の方に、ここをご理解いただけますでしょうか。
ここは敢えて強調しますが、絶対真似すべき点なのでしょう。


その生産管理システムと、必ず取り上げられるのが、


「新入社員と社長との交換日記」


「交換日記」なんて懐かしい響きですね。
今や「死語」なのでしょうか・・・。
私の年代ですと、中学生の頃、学校で流行りましたが。


ダイヤ精機に入社した18歳の「金の卵」
(この言葉ももはや死語なのでしょうか・・・)
に対して諏訪社長がこの交換日記をやったのですね。


女性社長ならではの細やかな社員教育・・・。
ただ、これはちょっとオヤジ経営者には
たぶん真似できないででしょうね・・・。






その8 創業社長と二代目の違い 


諏訪社長は「3年の改革」でダイヤ精機を変えてしまいます。
なかなかの経営手腕です。
家庭の主婦が急に会社を引き継いで、ここまでできるものなのでしょうか。
3年改革の後に社員と行った社員旅行のくだりは本当に
泣けてしまいます。


また、これも書いてあったことなのですが、このような講演をすると

「ビジネススクールに行ったことがあるのですか?」

「MBAを取得しているのですか?」


と必ず聞かれるそうです。


答えは当然「NO」
経営学を体系的に学んだことはなく、本すら読まないそうです。


ではなぜこれができたか?
諏訪社長曰く、


「2代目だからこそできたのだ」と。


これ分かりますか? これこそ2代目経営者に読んで
考えていただきたいところなのです。


「創業社長は、エネルギーにあふれ、強力なカリスマ性や
リーダー・シップを備えている。勘やインスピレーションも働き、
それが良い結果に結びつくことが多い。なぜその決断を下したかという理由は
後付けできる。


それに対して2代目は、カリスマ性やリーダー・シップは圧倒的に劣る。
勘で動く自信がないから、すべての判断や行動の裏付けとして
合理性が必要となる・・・。」


つまり諏訪社長の経営哲学はコレです。


「物事には原理に基づいた原則があり、基本がある。基本があるからこそ
応用ができる」この考え方。


普通の家庭の主婦ではないですね。やはり、諏訪社長が工学部で学び
エンジニアとして働いた経験があるからこそ、身に着いた考え方なのですね。


そう考えると、創業者が娘に「工学部しか行かせない」といった
真の理由が分かってくるのです・・・。





その9 若手採用・・・しかし リーマンショック! 



諏訪社長が社長に就任してから3年後の2007年。
若手採用を始めていきます。

町工場の問題として「高齢化」があります。
ダイヤ精機も平均年齢50歳以上。
これでは将来がないと考えたのでしょう。


でも、ハローワークに求人出しても一向に応募がありません。
それで未経験の方を育てることにしたのですね。


それで始めたのが「交換日記」
これは完全にネタなのでしょうけど、非常にここが面白かった。
ちなみにこの本の続編が、最近発刊されています。
「ザ町工場」


Photo

 


ほとんどこの採用教育の話が中心。
よほど苦労したのでしょう。


なかなかこの本も参考になります。

 

しかし、なんとかV字回復したと思っていたこのダイヤ精機に
強烈な逆風がきます。


お分かりですね。


「リーマンショック」


2009年1月。


「売上が8割から9割減ってしまった・・・」


その実、2008年7月期に3億4000万円だった売上が
2009年7月期は1億7000万円!
まさに半減。


これは会社存亡の危機!






その10 全員リストラを覚悟・・・ 



ダイヤ精機は2009年頃に倒産の危機が訪れます。


2009年10月には、あと3か月続くと資金が底をつくという
状況になって、ついに「全員リストラ」を思いつきます。


そこで、もっとも発注の多かった取引先に、正直に事情を話すと、
「今人手が足りない」
と逆に言われピンチを脱します。9人もの出向者を受け入れてもらえます。


この本を読んでいて思いますが、
この諏訪社長はなかなか「運のいい」経営者です。


以前エステーの会長の書かれた「社長は少しバカがいい」
で、成功する経営者には「運・勘・度胸」が必要である
と学びましたね。この三要素は大事なのです。
こちら


この諏訪社長にはまさにその3つが備わっていますね。


運も味方につけてしまいます。


リーマンショック後に日本は急激な円高に見舞われます。
1ドル140円台から3カ月で90円を割り込むまでに。
そうなると、自動車メーカーをはじめとする輸出企業は
海外生産へと舵を切るのですね。


ダイヤ精機はその波に乗ることができたのです。


ダイヤ精機の創業事業はゲージなのですね。
当時としては「割に合わない」とやめていく同業者が
多い中、この諏訪社長はゲージ事業を継続していたのです。
この「勘」も大事なのですね。


おかげで海外生産用のゲージの受注が急激に伸びたのです・・・。


絶体絶命の危機を脱し、2010年7月期に売上高は
15%増の1億9600万円に。

まさに「運」が味方してくれたのです・・・。





その11 首相に臆さずものいう女性



また例によってダイヤ精機を熱く語りすぎましたね。
ゴールデン・ウィークになることだし、そろそろまとめましょうか。


でも何度も書きますが、こんな「普通の家庭の奥さん」が会社を
立て直したのですから、(失礼!)誰でもできそうな気がしませんか・・・。


最後に一番参考になるお話。

「運・勘・度胸」の最後の「度胸」
ここが一番面白かった・・・。


会社が「どん底」であった2009年7月頃。
当時の麻生首相が、大田区を訪ね、中小企業経営者との
意見交換会をしたことがあり、その席に諏訪社長も呼ばれたそうです。


大田区の区長から、商工会支部会長らが顔をそろえた会議は
当然ですが厳粛なムード。
とても若輩経営者が口をはさむような雰囲気ではない。
まあそうでしょうね。


そのわずか30分ほどの会議の終了後、麻生首相が退出しようとしたとたん、
この諏訪社長がすっと立ち


「麻生首相、直訴させてください!」


驚いたSPが諏訪社長を両脇から羽交い絞めにしたそうですから、
なかなかの度胸ですね。


この直訴とは「雇用調整助成金の緩和」を訴えるものだったのですが、
実際にその直訴のおかげで、本当に政府が動いてくれたのですね。


これをきかっけに、「首相に臆さずものいう女性」ということで有名になり、
2012年に「ウーマン・オブ・ザイヤー」となったのですね。


これもダイヤ精機を復活させる原動力ともなったのです。
マスコミにも何度も取り上げられ、知名度も上がり、テレビにも引っ張りだこ。
それをきっかけに商談も増えたそうです・・・。


「運を引き寄せる度胸」

是非参考にしてください・・・。



(ガンバレ! 町工場の星シリーズ おしまい)

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