その1 独立開業の必読書
今年のテーマ「チャレンジ」に沿った本のご紹介。
正月に何気なく読んでこれは勇気が出ましたね。
「私もいつか定食屋をやってみようか・・・・」
とまで思わせてくれた本です!?
まずタイトルが長いのが、今流行の「売らんかな」のマーケティング戦略。
新聞の一面で見て思わず、「得意の」アマゾン衝動買い!
「未来食堂ってなんだ?」「ただめしって何だ?」
私のような好奇心旺盛な人は簡単に引っかかりますね・・・。
実は、この食堂はマスコミにもよく出る有名な食堂だそうですね。
私は正直まったく知りませんでした。
しかし、なかなかこの著者のチャレンジ魂に感動しました・・・・。
まず、この著者小林せかいさんのマスコミ的なご紹介。
「神戸女学院卒業後、東京工業大学卒、そして日本IBM、クックパッドで
6年間エンジニアとして活躍、その後脱サラし飲食の世界へ。
1年4か月修行後、2015年9月、神保町でカウンターのみ12席の食堂を
オープン。」
なかなか華麗な転職ですね。
つい私と比較してしまいました・・・。
「早稲田大学卒業後、野村證券就職、8年後31歳で脱サラし
会計業界の道に・・・。その6年後税理士試験合格し独立・・・。」
たった1年4か月の修行で、飲食店が持ててしまうのですね。
これは驚きました。
私は脱サラ後、簿記学校に必死になって通って勉強しましたが、
食堂を開店するには、調理師学校に通うとか、調理師免許や
料理修行に時間をかける必要ないのですね・・・。
この著者はまだ31歳。
私が脱サラした時と同じ。あの熱く夢ばかり見ていた頃を思い出しました・・・。
独立開業を目指す方には、絶対お勧めの「必読の書」です。
その2 一品食堂
未来食堂の店主は「小林せかい」さん。
女性なのですが、「せかい」という名前もユニークですね。
性格もなかなかユニークな方。(失礼!)
エンジニアでは人気のIBMを辞めて、
「何でIBM辞めたの?もったいない!」
きっと何度も言われたのでしょうね。
私も31歳で野村證券を辞めたとき、
「何で野村證券辞めたの?もったいない!」
何十回、何百回と言われたので
これはよく分かります。
きっと間違いなくお店を開きたかったからでしょうね。
私も本当に税理士になって開業したかったから・・・・。
では、そのいろいろ「ユニークなビジネスモデル」を
ご紹介しましょう。
先に言っておきますが、
「そんなことできるわけがない。」
「そんなことやってどうなるのだ。」
これも何千回といわれたそうです。
それに反発してきた強靭な心の持ち主でもあります・・・。
まず特徴的なことは、メニューは日替わりの一品しかないこと。
これはまず驚きますね。定食屋に行って
「肉にしようか?魚にしようか?」
などという選択はないということです。
座った瞬間に
「今日は鮭のしそ南蛮漬け定食です・・・」
と言われてしまうのですね。
ただその日替わりメニューもなかなか考えられたもの。
ローテーションも2か月もあるそうです。
一品にしたことで、注文から1分以内に出されます。
忙しい昼時には良いですね。
しかし、変なたとえかもしれませんが、
毎日吉野家の牛丼を食べに行くようなものですね・・・。
いわば「一品食堂」です・・・。
ここで、早稲田出身の方ならすぐ思いだしますね。
早稲田大学の西門のそばにある有名な食堂。
「牛めし」、「カレー」、「トンカツ」しかない「三品食堂」
でも、なぜ店名を「一品食堂」にしなかったのか・・・。
でもあえて「未来食堂」にした理由は他にもたくさんあります・・・・。
その3 まかないという面白い方法
一品しか提供しない理由はまだまだご説明しなければ
ならないのですが、そこは本書を読んでください。
この店主せかいさんは、さすが理科系出身なだけに論理的思考能力に
優れています・・・。
では、題名となった「ただめし」のご説明。
ここはぜひ参考にしていただきたいところです。
ではまず「ただめし」の原因となる「まかない」のご説明から。
この絵をご覧ください。
このお店はせかいさん一人でやっている小さなお店です。
従業員はいませんが、お手伝いさんを「まかない」として雇っています。
「雇っている」と書きましたが、実際は賃金の支払いはありません。
50分のお手伝いで1食もらえる仕組みです。
この仕組みが実にユニークなので、テレビなどで取材されているのです。
開店から閉店時間までの希望時間を申し込むのですね。
初回の申込は店頭でやって、あとは、ここも理科系らしく、
メールかfacebookで・・・。
こんな募集して人が来るかと思うと
意外に申し込みがあるみたいですね。
これだけマスコミで有名になると、
飲食店で働きたい人、修行をしたい人が殺到しているみたいです。
ここが面白いですね。
ただもともと1食が食べたい理由で働いていない方は
食べずにそのタダ券を店頭に張っておくこともできます。
それで誰でもそのタダ券を使って1食が食べられる仕組みです。
「へ〜!」
というお話ですね。
飲食店はどこでも人手不足です。
居酒屋に行くと日本人でない方も多いですからね。
色の黒い店員からいきなり
「いらっせい・・ましぇ・・・??」
と怪しい日本語に遭遇することが増えましたね。
これは人手不足で悩んでいる飲食店には
たいへん参考になるお話ではないでしょうか・・・。
その4 時給300円のアルバイト
この未来食堂流の「まかない」。
すごいですね。せかいさんが考え付いたのでしょうか。
これは面白い仕組みです。
理科系のせかいさんはITの世界を例に挙げてこう説明しています。
「これは飲食業でのクラウドリソース」だと・・・。
あえて説明はしませんが、新しい働き方らしいです・・・。
飲食店のアルバイトは相場的に1時間1000円くらいですね。
それをキャッシュで払わずに、1食という食事で提供した場合
どうなるのでしょうか?
税法的には「現物給与」と呼ばれるものですね。
お店としてはキャッシュでなく、食材で提供するということ。
つまり「原価率」を仮に30%とすると300円ということに
なりますね。
実際の原価率は実はもっと少ないのです。
あとで詳しく説明するつもりでしたが
このせかいさんがすごいのは、このお店の売上高と原価率を
ネットで公表していること。
2016年10月の速報値で26%ですね。
ということは、1時間(実際のまかないは50分)を260円で
働いてもらっているということ。
なかなかのアイデアだと思いませんか。
でも待てよ・・・。
これは税務的にどうなるのだろう?
税理士としての職業柄つい考えてしまいました・・・。
その5 現物給与の税務
「1食900円の未来食堂のランチを労働の対価として
ご馳走になったら、従業員は税金はかかるのかどうか?」
せっかく未来食堂のすばらしいビジネスモデルを
ご紹介しているのに、すいませんが、税理士としての悲しい性(さが)です・・・。
せかいさんがたった一店舗でこのようなスキームでやっていたら
当局はまず問題視しないと思うのですが、もし大戸屋とかサイゼリアなどの
大手チェーンがこの「まかない」戦略を真似したらどうなるのか?
つい考えてしまいました・・・。
(絶対にやらないと断言できますが・・・)
未来食堂のビジネス・スキームに関していえば
「税務論文」くらいかけそうな(!?)、なかなか面白いテーマですね・・・。
飲食店で「まかない」というのは、実はどこでもあることです。
忙しい飲食店なら、昼食時に他の飲食店に行っている暇ありません。
まかない付きとして募集する飲食店も多いですしね。
美味しい寿司屋やイタリアンレストランで、働くたびにそんなグルメが
毎日いただけたら従業員としてはうれしいですからね。
最初申し上げた通り、そういうものを「経済的利益」といいましたね。
意外と知られていないことですが、通達でそのあたり「まかない」については
バッチリ決められているのですね。
税務調査でもめることもあるくらいなので、
やはりどこの飲食店でもある問題なのでしょう・・・。
でも、飲食店の経営者100人いてこんなこと知っているは
一人か二人でしょうけど・・・。(難しいので後で説明します)
極端なお話として、1日7回この「まかない」を一人全部でやって
1か月働いたとします。
せかいさんが税金のことを何もしなかったら、税務署は果たして
「冗談じゃない!」と乗り込んでくるのでしょうか・・・・!?
分かりやすい例でいいます。
1時間900円×1日7時間×23日(月の稼働日とします)=144,900円
働いた方は、ふつう現金144,900円もらいますね。
でもその経営者が
「ありがとう。今月はランチ券161枚(7回×23日)ね・・・」
となったらどうなるのでしょうか・・・・??
経営者や経理担当者ならすぐ分かるでしょうけど、
普通、給料として144,900円払ったら、源泉税かかりますから。
扶養ゼロの(つまり独身場合)2,800円がかかるのでしたね。
「従業員にそれだけ経済的利益をあたえているのだから、源泉税を
払ってください・・・」
そういう税務署の理屈なのです・・・・。
その6 通達でバッチリ規定
実は「まかない」というのは原則課税されるのです。
税法の考え方としては、経済的利益をもらったら、
つまりランチ券でもランチの実食でも課税するという考え方なのですね・・・。
本当に厳しいです。
それが大原則なのですが、
「そうは言っても福利厚生でやっているのだから、
何とかなりませんか・・・」
と言いたい方に例外を認めているのです。有名な通達です。
ただこれ読んで「そういうことか・・・」
なんてまず思いませんよね。
どうして税法はこんなに難しいのでしょうか・・・・。
まず一番目に半分以上負担しているとことなっています。
ということは900円のランチなら『450円も?』
450円が正しいのかはあとで解説しますが、
これでは未来食堂のビジネスモデルが台無しですね・・・。
二番目に月に3500円以下であること・・・・。
「少額なら無視してくれる」ということですね・・・。
しかし、この二つの条件をクリアしないと、やはり
「給与として課税する」
というのがやはり原則なのですね。
書きながら思い出しましたが、
私が勤務した野村証券では社員に毎月7000円の食事券が支給され
3500円給与天引きがあったと思います。(30年も前のお話ですが・・・)
でも一点だけ、未来食堂に関しては救いがあります。
やはり450円は高すぎるのですね。
通達の解説にこういうのがあります。
つまり、実際のランチの値段ではなく、1食の原価でよいということなのですね。
ただ普通の飲食店の原価なんて簡単にはでません。
でもご紹介したとおり、この食堂はわざわざ毎月公表しているのです。
原価26%なら、1食900円×26%=234円
もし、1カ月161食も食べたら234円×161食=37,674円
「3万円くらいなら源泉税かからないでしょ・・・」
「そもそも月に数回の人がほとんどでしょ・・・」
そう言われるかもしれませんが、
タダめしでも課税するという考え方が正しいようです。
通達に沿った考え方なら
234円の半分の117円をもらえば課税されないでセーフです。
でも、もらっていても 3500円÷117円 = 29.9 ≒ 30回以上働いたらアウト・・・。
なかなか難しいですね。
課税されたとしてもその源泉税がいくらになるかも問題なのですが
甲欄適用がはたして正しいのでしょうか・・・。
どうも、まかないさんから「扶養控除申告書」はもらっていないようです。
これはというか絶対ないでしょうね。
つまり、住所や生年月日など教えてもらっていなそうですね。
まさか今年から適用される「マイナンバーの提示」!
なんて絶対している訳ありません・・・。
ということは税額の高い乙欄適用?
それとも日払いだから「日額表の摘要?」・・・
考えれば考えるほど分からなくなってきました・・・・。
その7 差し入れのシステム
税理士というのは、実に「イヤらしい」職業ですね。
せっかく、せかいさんが素晴らしいビジネスモデルを考えたのに
何だか揚げ足を取っているようで・・・。
もうこれくらいにして、未来食堂を応援する意味で、
もっとこの素晴らしいビジネスモデルをご紹介しましょう。
「差し入れ」というシステムがあります。
未来食堂にはお酒を一種類しか置いていないそうです。
そのかわり誰でも自由にお酒を持ち込むことができます。
持ち込み量は「タダ」
その「差し入れのルール」として必ず半分をお店に置いていくこと。
これも面白い仕組みですね。
店側はタダで仕入れられます。
でもさらに驚きなのは、そのお酒を来店者が自由に飲めるということ。
おカネを取らないそうです。
「ダメだよ!それは・・・」
飲食店経営者に言ったら怒られるお話でしょうね。
「どこで儲けるのだ!」
怒りだす経営者もいるでしょう。
でもここでさらにご紹介したいのは、
「あつらえ」という仕組み。
自分の好みや体調などに合わせで
自由におつまみなどの小鉢を注文できます。
ただし、これもルールがあって、その日の材料の残り物だけ・・・。
お店側としても在庫ロスがなくなり好都合でしょうね・・・。
何でこんなことをやっているかというと、彼女曰く
「螺旋型コミュニケーション」
簡単に言えば「口コミ効果」。
SNSで拡散するなどまさに今流のマーケティング戦略ですね。
なかなか頭の良い方です。文章読んで感じます。
どうでしょうか。
いろいろ参考になるお店だと思います。
そろそろ未来食堂でランチでもしたくなってきましたか・・・・。
その8 あなたも未来食堂を!
「差し入れ」や「ただめし」で恩恵を受けたお客さんとしては
本当にうれしいでしょうね。
つい誰かに教えたくなりますからね。
まさにこれこそ「口コミ効果」なのでしょう・・・。
しかし、ここでその税務的な問題点は・・・なんてことはもう書きません。
未来食堂の所轄の税務署は神田税務署ですね。
きっと税務署の職員は一度くらい食べに来ているはずです。
以前ご紹介しましたが、「税務署は3年泳がせる。」にそんなことを
書いてありましたから・・・・こちら
しかし、どうあっても応援したいですね。
もし万が一税務署が来ても、顧問税理士団でも作って
最高裁まで争ってでも(!?)、守ってあげたいですね。
素晴らしいビジネス・スキームに夢を感じませんか?
せかいさんも言っていますが、「未来」と書いていながら
どこか懐かしいレトロな食堂です。
「あつらえ」や「差し入れ」なんて昔はどこでも
あったお話でしょうから・・・。
最後に書きますが、神田神保町は私が31歳で脱サラした直後に
夢を追いかけていた町です。
神保町にある大原簿記学校に必死になって通っていました。
食べる暇も寝る間も惜しんで勉強していたので、
「夢を喰うバク」だと思いながらも、
本当に毎日ハングリーでした・・・。
あの頃にこの未来食堂があったら、きっと毎日「ただめし」していた
かもしれませんね・・・。
未来食堂を真似して、夢のあるお店を開いてみませんか。
お店の名前は私が決めてあげましょう。
「未来食堂U」
ドリカムの名曲「未来予想図U」みたいですね。
「ずっと〜♪ 心に描く〜♪ 未来食堂は〜♪
ほら〜♪ 思った〜♪通りに〜♪ かなえられていく〜♪」
(ガンバレ未来食堂!
ガンバレ!せかいさんシリーズ おしまい)