1.ワイドショーで「家具屋姫の戦い」と話題に


大塚家具




この連休に、大塚家具をじっくり読みました。
昨年によくテレビのワイドショーあたりでよく出ましたからね。
ご存知の方も多いでしょう。



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創業者大塚勝久氏と実の娘の久美子氏との戦い。


「上場企業の親子喧嘩」、「老舗家具屋の親子の確執」、
「家具屋姫の戦い」・・・・。
週刊誌あたりで面白おかしく読んだ方も多いでしょう。



著者は、磯山友幸氏。元日経新聞社勤務。ヨーロッパの支局長まで
勤めたエリート記者が、独立して最初に手掛けた力作です。
丹念に調べ上げて、もともと専門がコーポレートガバナンスだったらしく
実に分かりやすいです。
これは正直勉強になりました。お勧めの一冊です。



まず大塚家具の説明から。


1969年(昭和44年)埼玉県春日部市にて大塚勝之氏が父親の経営する
箪笥屋から独立し、株式会社大塚家具センターを設立。
当時は社員24名。最初から大きくスタートしたのですね。


すぐ思いだしましたが、ニトリの似鳥家具店が札幌で創業したのが、
1967年(昭和42年)。
たった一人まさにゼロからのスタートだったのですからね。
それに比べたらかなり違いますね。
こちら


その後発展し、1993年(平成5年)のまさにバブル期ですが、
株式を店頭公開させています。
当時はまさにバブル景気。住宅は次々に建てられ、大量の家具を
必要とされました。


しかも、フローリングなど和式から西洋式への急速な移行もあったのですね。
また、「名古屋の花嫁さん」などで象徴されるような、
婚礼家具の大量買いなどの時代背景から、フォローの風が吹き荒れていたのです・・・。


店頭公開と同時に、大塚家具を有名にさせた「会員制」の導入。
高級家具を志向する富裕層の囲い込みにより
これで大成功させます。


それから20年。
不景気とデフレが家具業界を変貌させました。


今回の親子喧嘩の発端はこの「会員制」を巡る経営方針の対立。
時代の変化を読み取らなければいけないのですね。
なかなか参考になりました・・・。




2.典型的な事業承継問題




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ではまず「華麗なる一族」の大塚家のご説明から。
親族図表をご覧ください。
創業者 大塚勝久氏 昭和18年生まれ 72歳。
勝久氏が26歳の時に大塚家具を創業します。



奥さんが千代子氏ですが、なんと2男3女の子宝に恵まれました。
創業社長としてはいうことないですね。

 

でもなんでお家騒動がおきたのでしょうか?


長女が主人公の大塚久美子氏48歳 昭和43年2月26日生まれ。
この方は名門白百合中高から一橋大学経済学部に進みます。
優秀ですね。
卒業後みずほ銀行に採用され3年後の平成6年に大塚家具に
入社しています。


実は大塚家具の長男大塚勝之氏は有価証券報告書で調べたら、
なんと昭和44年7月19日生まれです。
年子ですけど久美子氏は早生まれですから、学年で言うと2学年下。

 

名門企業のご長男ですので、早くから後継者として育てられたのでしょうね。
勝之氏の情報がなく分からないのですが、ネットでは名古屋の美大出身という情報と
東大法学部に入ったという情報がありました。
いずれにしろ、久美子氏に先駆けること2年の平成4年に入社しています。



本来は帝王学を身に着け2代目の地位を確立すべきだったのでしょうね。
でも後継者になったのは長女の久美子氏。



長男としては面白くなかったのでしょうね。



長女久美子氏は次女と次男、そして三女の婿と共に
大塚家具を改革しようとします。



面白くないご両親と長男は当然対立。



私が事業承継問題としても興味があったのがお分かりでしょう。


日本の伝統的な考えでは長男が後を継ぐのは当然でした。
でも最近は考え方が変わってきているのですね。


兄弟姉妹は平等で尊重されるのは男女に関係なく
「長子」ということになってきているのですから・・・。






3.相続対策を条件に社長就任


ワイドショー的な「親子喧嘩」のことを書くのでなく、
税の専門家として事業承継の観点から説明してみましょう。

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このお二人の姉弟の変遷です。


長女久美子氏が平成6年の時に入社。まだ26歳ですね。
その2年後の28歳で早くも取締役就任です。
と同時に長男勝之氏も26歳ですでに取締役。


このあたりから、典型的な「同族企業」と読み取れます。
やはり、この大塚家具は創業者勝久のどうみても「ワンマン経営」


一応その後上場企業となりましたが、申し訳ないですが
どこにでもある中小企業と同じ。
だからこそ事業承継のリアルなお話として参考になるのですね。


久美子氏は2004年(平成16年)に一度取締役を退任しています。
どうやら勝久氏とぶつかったようです。
実の親子でもやはり難しいですからね。


自らコンサルタント会社を立ち上げ別の業界へ。
ここで、次期後継者として長男勝之氏が社内外に周知徹底されていきます。


しかし、2008年(平成20年)になんとインサイダー問題で
長男勝之氏が辞任してしまうのですね。
そこで白羽の矢を立てられたのが、長女久美子氏。
この時勝久氏は65歳。久美子氏も40歳。
まさに事業承継問題の大事なタイミングであったのですね。



勝久氏は会長に退き、久美子氏が社長に。


でもこの時久美子氏が社長就任として要求したことが
2つ。


1.完全な同族経営、つまり役員全員が一族であることを
改めて「社外取締役」をいれること。


2.持株の30%を所有する勝久氏の相続対策をすること。



なかなか久美子社長は頭がいい。
かなり勉強されていたようです。
それでどうしたのでしょうか。これはまた参考になります・・・。





4.持ち株会社の失敗




社外取締役を入れること」これはどういうことを
意味するのか?


これこそまさに「コーポレートガバナンス」なんですね。
中小企業なら、社長=オレ。
まさにやりたい放題。
上場企業となると取締役会による合議制が大前提。
社長の一存では決まらないのが「建前」


勝久氏は久美子社長の願いを聞き入れ、取締役をいれます。
結果的に取締役会は、一族三人、社員出身二名、社外二名の体制に。
でも結果的にこれがどうなったかはあとで説明します。

 

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それと相続対策として重要なのが「ききょう企画」という会社。
直近の有価証券報告書の大株主の状況をみてください。
筆頭株主はこのききょう企画。


なんと189万2000株も持っています。
当然もともとは創業者勝久氏の持ち株。


この会社は勝久氏の持ち株を2008年に130万株を
移しています。
でも会社にはカネはないから「私募債」を発行しています。
なんと15億円。それを勝久氏が引き受けているのです。


そのカネで株式を購入したのです。
ということはどういうことか分かりますか?
自分で出した15億円で自分の持ち株を買わせただけなのです。


「これが果たして相続対策?」

ということはどこのワイドショーでも説明していませんでした。
15億円で130万株を買ったということは一株1153円。
もし大塚家具の株価がそれ以上になれば相続対策ということなのでしょうか?

因みに、ききよう企画の株はもともとは勝久氏が大半を持っていたようですが、
株の譲渡と同時に勝久氏の奥さんである千代子氏が10%に
兄弟姉妹4人がそれぞれ18%ずつ所有するように移しているのです。


「これが何で相続対策?」

と悩む方は多いと本当に思いますね。
社債の期限はあるのですが、もともと償還を予定するものではなかったようです。
でも親子喧嘩が進むにつれ、オヤジさんから
「いい加減に15億円返してくれ!」
となってしまったのですね。



このスキームはいったい誰が考えたのでしょうかね。
このききょう企画の保有する議決権が、その後大問題となるのですから
「相続対策の失敗例」として、これは後世に語り継がれる
有名な事案となるのでしょうね・・・。





5.社外取締役の役割



久美子社長の要望から社外取締役を入れていきます。


阿久津聡(一橋大学院教授)と長沢美智子(弁護士)、中尾秀光(元ホウライ会長)
の三名。阿久津氏と長沢氏は久美子社長が探してきた方。
中尾氏は銀行出身でもともとは勝久会長と個人的に親しかった方。
この3名を加え、社内役員は5名。
勝久会長、長女の久美子社長、長男の勝之専務、
娘婿の佐野上席執行役員、従業員出身の渡辺執行役員。
全部で役員は8名ですね。


しかし、2014年(平成26年)7月に久美子社長は
解任されてしまうのですね。


その前から久美子社長と勝久会長は経営方針で対立していたようです。
決定的なことは、会長が進めていた埼玉県春日部の大規模な出店計画。
勝久会長の生まれ故郷である春日部で5000坪の土地を購入し
建設コスト合わせて100億円もかけるというもの。
年間の純利益が8億5000万(2013年12月期)ほどの
大塚家具にとっては社運を賭けたプロジェクトですね。
このプロジェクトには久美子社長は大反対していたようです。


しかし、どうして解任されてしまったのか?
取締役会というのは「多数決」ですからね。


「久美子社長解任案」で賛成とする勝久会長側についたのが、
勝久会長、勝之専務、佐野氏、渡辺氏、中尾氏の5名。


解任に反対したのが、阿久津氏と長沢氏の2名。
久美子氏は決議には加われないから、結局5対2で解任。


久美子氏が要望した社外取締役という制度が何の機能も
果さなかったのですね。



勝久会長は、久美子社長を解任すると、すぐに売買契約を
締結してプロジェクトを進めてしまいます・・・。



「これがはたして上場企業か・・・」

そう思いませんか?






6.ついに株主総会で対決へ



取締役会が分裂した会社はいったいどうなるのか?
改めて商法を読み直し、これは結構勉強になりました。



解任された久美子氏は反撃に出ます。
まず、解任に賛成した中尾氏を攻撃します。


本来なら独立した立場から賛否を示すべき取締役が、
社長を解任したことで、「株主訴訟を提起」するまで準備します。


中尾氏は長年の友人であった勝久会長から頼まれて社外取締役に
なっただけだったようです。
久美子氏の正論に歯向かうことができず、ついに辞任へ。
これで取締役は7名ですね。



過半の賛成を取るには4票が必要です。
阿久津氏と長沢氏は久美子側。あと1票。
よって久美子氏と親しかった妹のご主人である佐野氏を説得。


結局4票を獲得して、取締役会で可決。
久美子氏の社長復帰が決定したのです。


でもこの問題は株主総会までもめたのですね。
それはどうしてか?


これも商法の勉強になりました。
会社法303条(株主提案権)というのがあるのですね。
勝久氏はもともと創業者ですから大株主でもあるのです。
「自分を取締役にしなさい」
と提案できるのですね。



久美子氏はこの時点で、3月の株主総会以降には、
勝久氏を会長として残すことも、勝之氏を専務として残すことも
まったく考えていなかったのです。


「創業者が追い出される」


という前代未聞の株主総会での対決。
これはなかなか面白かったです・・・。





7.公開したことを後悔


結局、決着は株主総会でつける以外はなくなったのです。
2015年3月の株主総会に向けて、現役の会長と社長、
実の父と娘との委任状争奪戦、いわゆるプロキシ―ファイト
となってしまったのですね。


創業者の勝久氏はいったいどう思ったのでしょうか?
「こんなことなら上場公開しなければ良かった・・・」
そう思わなかったのでしょうか。
持株を分散しなければ・・・
社外取締役を入れなければ・・・
ワンマン経営を続けられたからですね・・・。


「会社は誰のものか?」


私の永遠のテーマがここにあります。
未公開企業なら、「会社はオレのもの」。
上場公開すると「会社は株主のもの」になるのですね。
これが法律的解釈。

 

株主総会の場面が実になまめかしい。感動すらします。
勝久氏が株主提案でマイクの前に立ちます。


「今回の経営をめぐる騒動は、すべて私の不徳の致すところです・・・」


情に訴えます。


実の母親千代子も一株主として発言し、これもこの録音がワイドショーの
格好のネタにもなりました・・・。



実の父や母からの馬事雑言に対して、娘の久美子社長は
「理」で平然と対応します・・・。


結果はご存知の通り、久美子氏の提案が通り、
父母は会社から追放されてしまいます・・・。


やっぱり、勝久氏は株式を「公開」しなければよかったと
「後悔」したに違いありません・・・。


勝久氏はやがて、所有している大塚家具の株式を売却し、
それをもとに新会社「匠大塚」を創業していきます・・・。





8.にいまる、さんまる



本当にこの事案は、「コーポレートガバナンス」の勉強になりましたね。
特に巻末に書いてあった「オーナー家としてのガバナンス問題」
これは必読です。
プロの相続専門家としても考えさせられました。


しかし、最後に私見を。
私の世代、50代はサラリーマンとして「上がり」の世代。
優秀な方は「取締役」になっています。
昔のサラリーマンなら憧れのポジション。
専属の秘書が付き、経費は使いたい放題。
私的なゴルフでも会食でも舛添知事以上に何でもアリ。



社長に忠実な僕と働いて、高額な退職金をもらって
関連会社の社長に収まり、
またここでも経費使いたい放題の最後の楽しいサラリーマン生活・・・。



20年も前はそうだったのですけどね・・・。
今やそれが変貌してしまったということです。
取締役として、代表者に対して責任を負う・・・。
それができなければ損害賠償。厳しいですね。


そもそも「天下り」なんて言葉も「死語」となってしまったし、
また経費も昔のように湯水のごとくには使えない・・・。


会社法的には当たり前といえば当たり前のことですけどね・・・。
サラリーマンもキビシイ時代なのですね。


それとこの本で学んだのは、「にいまる、さんまる」という言葉。
ご存知でしたか?



安倍政権が掲げた「女性活躍の促進」


「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位の
女性が占める割合を30%以上にする目標」です。



つまり上場企業の役員の女性比率を30%以上にすると
いうことなのです。
この観点で世の中は動いてきているのです。

 

今回の主人公、大塚久美子社長は男女雇用機会均等法の
第一次世代です。
あの世代の女性が、まさに役員として活躍しなければならない時代に
なってきたということです。今回久美子社長が注目されたのは
そんな時代背景があったからこそなのです。


これから活躍していく女性役員たちにエールを送りたいですね。
あと4年間で女性役員が量産されていくのですから。



最後に我々の同級生たち(当然男性)にもエールを送りたいですね。
ガード下の安居酒屋で同級生達のボヤキが聞こえそうですが・・・。



(ガンバレ! 家具屋姫シリーズ おしまい)

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