2010年2月1日に稲盛氏は、会社更生法の適用申請したJALの
会長に就任されました。
その頃、取り上げた稲盛氏の書籍で「生き方」がありました。こちら
もう3年も前の事です。実にすばらしい本でした。
100万分も越え、「ベストセラー」として売れ続けていますね。
あの頃は、
「JALはどうなるだろう」
「JALでもアメーバ経営をやるのだろうか?」
そう好奇の目で見られていたと思うのですが、
まさにそれを実践していたのですね。
何だか読んでいてうれしくなりました。
「経営の神様」というとよく松下幸之助氏が挙げられますが、
現存する「生き神様」としては、やはりこの稲盛和夫氏が
「新経営の神様」となるのでしょう。
2010年2月1日に就任してから、ほぼ3年後の2013年3月31日に
当初の約束通り、会長を退任されました。
その3年間何をしたかは、実は断片的にしか伝わってこないのですね。
それをこの著者である大西康之氏(日本経済新聞編集委員)が
丹念な取材をもとにまとめています。
「誰がやっても立て直せない」と言われたJALを、稲盛氏はたった3人の腹心をつれて
JALに飛び込んだのですね。
過去最高益の利益を叩き出し、株式の再上場にこぎつけたのです。
その立て直しの根幹にあるのは、やはり「アメーバ経営」なのです。
会社更生法の適用申請したときに、JALが抱えていた負債は
2兆3221億円!
戦後最大の倒産ですね。
もともとJALは国策企業として産声をあげた企業で、常に官僚や政治家に
振り回されてきたのです。
JALの幹部は本物の官僚よりも官僚的で、
「お金を稼ぐことよりも社内調整や政府との交渉にいそしむことが仕事」
と考える人が経営層を支配していたそうです。
労働者側も8つの労働組合もあり、しかも驚くことに
年収3000万を超えるパイロットがなお、その待遇改善?を
求めていたそうです。
正直、会社としては「腐りきっていた」のでしょう。
こんな「病んだ企業」を稲盛氏は立て直していきます。
これは実に参考になります・・・。
その2 リーダー教育で孤軍奮闘
JALという会社は長い間、就職人気ランキングで常に
トップグループでしたね。
だから社員は誰もが有名大学卒で優秀な方たちばかりなはずですね。
それでも、そんな優秀な社員がいる企業が破たんしたのです。
どうして破たんしたのでしょうか?
稲盛氏は、就任後それをまず経営幹部に聞いていきます。
JALの子会社を含め100人以上の社長に全員に
のべ100時間以上かけじっくりと会っていきます。
でも、「天下りの子会社」が100社以上あったということですから
それだけでも驚きですね。
そこで、稲盛氏はすぐ感じます。
「まず当事者意識がない。リーダーとしての自覚がない。」
こうばっさり切り捨てます。
ここで「リーダー」という言葉、稲盛経営学では重要な用語です。
「リーダー」とは「私心なく集団を引っ張る指導者」のことを
いうのですね。
「マネージャー」(管理者)とは決して言わないのです。
アメーバ経営の小集団を引っ張るのが、まさに「リーダー」
大事な役回りです。
稲盛氏はそのリーダ研修をやることを提案します。
一日3時間の研修を一か月間に25回。
実はここでも社内だけでなく、産業再生機構からも大反対。
でもここで面白いと思ったのは、JALの社員から
「ではどこのコンサルタントに頼みましょうか?」
とても破たんした企業の方の言葉とは思えないですね。
「稲盛経営学」では、そのリーダー教育は
自分たちでやるものなのですね。
カリキュラムも自分で決め、司会も講師も自分たちでやる・・・。
こうしてようやく2010年6月から、リーダー教育が
始まったのですが、当初はまったく効果はなかったようです。
JALの高学歴の幹部社員に対して、稲盛氏のいう言葉は
どうも「胡散臭く」映ったようです。
稲盛氏の書籍を一度でも読んだ方ならお分かりでしょう。
稲盛氏は決して難しいことをおっしゃてはいないのですね。
「利他の心を大切に」
「ウソをいうな」
「人をだますな」
まさに小学校の道徳の教科書に出てくるようなもの・・・。
「こんな忙しい時に、なんでこんな話を聞かなければならないのか!」
そういって退席する役員も多かったそうです。
齢80歳になろうとする稲盛氏のまさに孤軍奮闘でした・・・。
その3 従業員の幸福が第一の目標
稲盛フィロソフィ(哲学)は非常に道徳的です。
「利他の心」
という「噛めばかみしめるほど味のある」言葉もありますが
ほとんどが道徳的で、難しくもなく容易な言葉なのですね。
3年間に稲盛氏を取り上げてから、いろいろ書籍を購入してみましたが
ほとんど同じようなことを言っているものばかりです。
「稲盛教」といったら言い過ぎかもしれませんが、
宗教のように思う方もいるでしょう。
しかし相手のJALの経営幹部は、高学歴でプライドが高い人ばかりだったようです。
当初は、この「稲盛教」がまったく受け入れられなかった。
それでも、この稲盛氏の標語を分かりやすく解説した「フィロソフィ手帳」を
全社員に持たせ、必死の努力・・・。
結局、経営幹部を説得するには半年かかり、全従業員に受け入れられるまで
1年もかかってしまったのですね・・・。
2011年4月から、羽田空港の倉庫に手作りの教室を作ったそうです。
稲盛フィロソフィを学ぶための教室です・・・。
稲盛氏はなぜこのような行動をとったのでしょうか。
JALは破たんした企業です。
稲盛氏は
「全社員が本気にならなければ再建はできない」
そういう信念だったようです。
そのために破たんして「茫然自失になっていた」社員の心のケアから
入ったのです。
稲盛氏が従業員の心をとらえた「大事な言葉」があります。
それは
「従業員の幸福が第一の目標」
これを最初に掲げたのですね。
実は、この言葉は稲盛フィロソフィの大事なキーワードです。
JALがなぜ破たんしたのかといえば、簡単にいえば「JALの高コスト」体質が
その理由ですからね。
そのためには、社員の待遇を含め、あらゆる場面で大ナタを振るわなければ
ならないのです。
それを知っている従業員としては、そこが一番気になっているところですから。
いつリストラされるかもしれない会社では、
本気で頑張れないですからね。
稲盛氏は、役員と従業員の心を育てることに、
膨大な時間を費やしたのです・・・。
その4 アメーバ経営
稲盛フィロソフィ(哲学)はこれくらいにして
いよいよ本題に入ります。
ご存知「アメーバ経営」なのですね。
この原書は何度も読みかえしましたが、
どうも京セラのように製造業を前提とする管理会計の
イメージだったのですね。
だ
からこそJALのような会社にあてはまるのか?
それに興味があったのですね。
稲盛氏はJALに乗り込んだとき、森田直行氏というアメーバ経営の
「伝道師」も腹心として連れて行ったのです。
森田氏は全国450社!にアメーバ経営
を「移植」してきた、コンサルタントとしては第一人者なのだそうです。
「JALとアメーバ経営がどう融合したのか?」
これがJAL再生のカギであったのは間違いないのでしょうね。
2010年3月、JALの会長になった直後に稲盛氏の言った言葉、
「商売人感覚を持った人があまりに少なく、八百屋の経営も難しい」
こう切り捨てています。
理由は明らかなのですが、JAL特有の体質です。
「利益より安全を優先する」
「公共交通機関だから赤字路線でも飛ばす」
こういう公社的な感覚なのですね。つまり営利企業でありながら
役人感覚が社内に根強く蔓延っていたからです。
「予算を消化する」というあの役人独特な感覚が、
JALを破たんさせたのですね。
「社員全員が経営感覚を持つこと」こそが
アメーバ経営の要諦なのですね。
そのためには、前述の稲盛フィロソフィを啓蒙しつつ、
アメーバ経営を実行するための新体制が出来上がったのは、
2010年12月。
乗り込んでから10カ月も経ってようやくできたのです・・・。
その5 一便ごとの収支を翌日に
JALにおける「アメーバ経営」を理解するための
分かりやすい例が出ていました。
例えば成田・ニューヨーク間の一便があるとしますね。
ではその一便の「収支」を今まで出していなかったのです。
収支ですから、収入と支出ですね。当然一便ごとの「儲け」ということになります。
これをアメーバ経営では
「一便ごとの収支を翌日に出す」
仕組みにしたのです。
これこそJALに最適な「部門別採算制度」なのですね。
でも実際には、管理会計上の手間は大変なことなのでしょう
航空機会社というのは突き詰めれば、何万人もの人々が協力して
一機の飛行機を飛ばしているのですから。
一枚のチケットには、パイロット、客室乗務員、整備士の人件費から
航空機のリース料金、燃料費、空港の電気料金、水道代まであらゆるコストが
かかっていますからね。
これを正確に出すことから始めたのですね。
でもこれが出来たら、「不採算路線」何て一目瞭然なのでしょう。
ではなぜそういう努力を今までやってこなかったか・・・。
公共交通としてのプライドなのでしょうけど、政治家とかいろいろな影響も
あったのではないでしょうか・・・。
「過疎地に政治の力で飛行場を作る」なんてお話は
かつてどこにでもあった訳ですから・・・。
「一便ごとの収支」もそうなのですが、
「部門別に採算を出す」というのもアメーバ経営なのです。
具体的には、JALの従業員3万人を10人ずつのチーム
(つまりこれがアメーバ)に分けるのですね。
簡単にいえば、それをチームごとに競わせる仕組みなのです。
例えば、キャビン・アテンダント(CA)を10人ずつ、
10チームあったとしますね。
毎月「機内販売の売上高」でランキングするのですね。
こうすれば、CAが「イヤでも」努力して機内販売を
するようになる訳ですね。
当然売るためにはサービスも良くしなければならないし、
愛想も良くなければならない・・・。
最初に稲盛氏が
「八百屋の経営もできない従業員ばかり・・・」
といった意味がようやく分かりましたか?
アメーバ経営とは本当に見事な仕組みです・・・。
その6 中小企業経営にも通じるお話
ところで、アメーバ経営のご紹介や稲盛氏の手柄話を
くどくど書きたいから、この本をご紹介した訳ではないのですね。
中小企業に置き換えて、何が悪くて、何を改善したら良くなったか
それを知っていただきたいのですね。
中小企業にありがちなお話ばかりですから。
では話を戻して、JALがなぜ破たんしたのでしょうか?
それは、公社的な価値観で「各部門が予算を消化する」という
役人体質がしみ込んでいたからですね。
もっとはっきり書いてありました。
「社内に数字の興味ある人がいない。」
「国際線の収支は2か月後にようやく出てきた」
もうここだけで、中小企業そのものですね。
「数字にまったく興味のない社長さん」も多いですし
(内緒かな・・・)
月次決算書が2か月経っても、できない会社も多いですね。
(これは天に唾を吐くような話ですが、我々会計業界も悪い・・・)
なんだか、JALが破たんした理由が
他人事でもなくなってきましたね・・・。
これをアメーバ経営により、
「国際線の収支が翌日分かるようになり」
「全社員が数字に興味を持つようになった・・・」
すごいと思いませんか。
普通リストラでコストを削減すると、社員の士気は低下するのですが、
アメーバ経営の場合は、経費を削っているのに社員の士気が
上がるのですね。
有名なお話ですが、破たんする前まで、国際線のパイロットは、
フライトの朝は、常に自宅からハイヤーだったそうです。
現在は、全員電車で空港まで通勤。
なぜこれだけ社員のモチベーションが変わったのでしょうか・・・。
それと私のような会計業界人が感動したお話を。
JALでは毎月3日もかけて、「業績報告会」を開いていたそうです。
先月と今月の数字を比較して、その原因を突き止め、対策を練り、
翌月の見通しを立てる・・・
そこまで稲盛氏は深く要求したそうです。
まさに「稲盛道場」!!
「なぜ収入が減ったのか。なぜ費用が増えたのか。数字にはすべて理由がある。」
これは、稲盛氏の経営哲学ですね。
約30人の役員が一人ずつ、毎月の業績報告をさせたたのです。
毎回の会議で、A3で100枚にもなる数字の束を稲盛氏は丹念に
読んでて、経営幹部をとことんやり込めたんだそうです。
「ここまでやるのか・・・・」
81歳の老経営者に、感動すら覚えました。
中小企業にもぜひ参考にしていただきたいお話です・・・。
その7 稲盛経営学をぜひ参考に
2011年3月期の営業利益1884億円
2012年3月期の営業利益2049億円
JALは稲盛氏らの力で、見事なV字回復で、再生しました。
誰もがこうなると予想できなかったでしょう。
経営破たんしたときに、100%減資、つまり
「株が紙切れ」になった会社ですから。
でもマスコミから、今でも「政府にエコ贔屓されたから再生できた・・・」
よく言われますね。
つまり、破たんしたときに、法的整理として5000億円もの
「借金棒引き」、さらに企業再生支援機構から3500億円の支援。
更には会社更生法により、破たん処理に伴う繰越欠損金の
「9年間もの相殺」で、今後3000億円もの納税が免れるという超優遇措置です。
(そのための税制改正があったという噂もあるくらい)
特にライバルANAからは強烈なパッシングを受けていますね。
「JALはズルイと・・・」
まあいろいろあるのでしょうけど、中小企業経営者のための
「稲盛氏の経営学」の観点からご紹介してきました。
参考になりましたでしょうか。
最後にもっと「稲盛経営学」を極めたい方に特別情報。
「盛和塾」というのがあるのをご存知でしょうか。こちら
今から30年も前から続く、稲盛氏の私塾です。
全都道府県に全部で54の塾、会員6300人。
「日本最強のビジネススクール」
と言われます。
本気で稲盛経営学を学びたい方には最適でしょうね。
「アメーバ経営」の勉強会もあります。
ただ誰でも入会できる訳ではありません。
会費もそれになりにしますし、入会すると過去の書籍を
全部購入することを強要されます。
ざっと最低でも100万円以上はかかるのでしょうか。
私も過去本気でここで勉強したいと思ったこともあります。
私も「稲盛教の隠れ信者」ですから・・・。
ただ盛和塾の内容をよく知りたい方には、
個人的にこの本をお勧めしておきます。
私もこの本はたまに、読み返します。
盛和塾の講義録が書籍化されたものです。
読むと年商5億から100億くらいの優良企業、
それも2代目か3代目の経営者の悩みに対して、
稲盛氏が誠実に答えられています。
中小企業のオーナーの悩みに、
「稲盛氏ならどう考えるのだろう。どうお答えになるのだろう。」
そう考えながら読むと、実践的稲盛哲学(フィロソフィ)の習得に
つながります・・・。
JALのようにV字回復されたい経営者の方にも
お勧めしておきましょう。
(ガンバレ JAL シリーズ おしまい)