読書の秋はまだまだ続きます。
秋の夜長は楽しいですね。これだから読書はやめられないのですね。
先日の「借金40億円」に続いて飲食業のお話。
いろいろ勉強させられますね・・・。
さて、今回は「牛タン」のお店。
「牛タン ねぎし」
はご存知でしょうか。
現在、東京を中心に35店舗を展開。年商は54億3000万円。
ねぎしの創業は昭和56年(1981年)
34年も続いている「老舗」です。
でも正直書くとそれほど知名度はないですね。
さらに恐縮ですが、他の飲食チェーンに比べれば、
非常にゆっくりとした成長スピードです。
34年で35店舗ですから、「1年で1店舗」ですからね。
以前ご紹介したサイゼリア1000店舗なんかと比べたら
考えられないほどのペースです。
最近、このねぎしを運営する株式会社ねぎしフードサービスが
「日本経営品質賞」や「農林水産大臣賞」などをさまざまな賞を
取って脚光を浴びています。
私も、例のカンブリア宮殿で知っていました。
ただ個人的には、「糖質制限」を実践するトウシツセイゲニストとしては、
どうも定食屋さんは避けていたのですね・・・。
今回この本を読んで初めて行ってみました。
中野にもねぎしがあるのですね。
その美味しいこと!
なぜこのねぎしがいま脚光を浴びているのか。
牛タンの味と共にかみしめてみてはいかがでしょうか・・・。
その2 20台で飲食店の成功と失敗
ではまず主人公のご紹介。
根岸榮治氏。
年齢は非公開ですが、今から47年前の昭和43年(1968年)に
当時勤めていた百貨店を退職したとありますから、
きっと現在70歳くらいなのでしょうか。
テレビで見た感じでは結構お若い感じがします。
たぶん20代の時でしょう。
その当時飲食店でも始めようとしたのですが、経営セミナーに参加して
「今、カレー専門店が流行っていますよ。」
と聞き、福島のいわき市で第一号店を開いたものの大ヒット。
その後「札幌ラーメンが流行っている。」と聞くとすぐそれを真似して
大ヒット。
その後もコーヒーショップも・・・。
このように東京で流行っている業態を常に真似するという「狩猟型経営」
東京で流行るものを地方に持っていくという、情報過多のいまではとても
うまくいきそうもないのですが、当時は簡単だったのですね・・・。
ファミレスまで手を出して、いつの間にか南東北地方で20店舗も持つ
経営者になったのですね・・。
こんなに簡単に経営ってできるのでしょうか・・・。
でもやはり経営は甘くはありません。
ある日、大失敗をします。
東京で大ヒットしている大皿料理店を真似して、仙台に店を
出しました。
やはり予想通り行列ができるお店に。
でも1年後のある日。突然社員全員がいなくなったのです。
同じ業態の店に、店長どころかスタッフ全員が引き抜かれたというのです・・・。
こんなことがあるのですね。
なぜこういうことが起きたか、
これを猛反省してこの社長はハッと気が付いたのです・・・。
その3 東京歌舞伎町に進出
猛反省した根岸社長は1980年代に入り、
経営スタイルをガラッと変えます。
いままでの「東京の模倣」をやめたのですね。
逆に東京進出を計画します。
ここで社長の経営哲学。
「午前6時の商品」を狙うことにしたのです。
「午前6時の商品」というのは、初めて聞いた言葉ですね。
つまり、ちょうど夜明けの時間。
まだ認知されていないが、
これから徐々に認知されていこうかという商品ということ。
逆に「昼の12時の商品」とは現在は需要は多いが、
競争相手も多く、いずれ斜陽を迎える商品のこと。
なんとなく分かりますね。
そこで「午前6時の商品」として選んだのが牛たん。
ご存知の通り、仙台では有名でははあったのもの、
当時は全国的には認知されていません。
でもおいしさとヘルシーさでこれから伸びるだろうと
思ったのでしょう。
それで1981年新宿歌舞伎町に、「牛たん とろろ 麦めし」
の店を出します。
でもやはり商売はそう簡単ではありません。
1日の売上が3000円か5000円・・・。
2年ほどはさっぱり。
飲食店ビジネスの難しさですね。
でも石の上にも3年。
ようやく徐々に客足が伸びてきました。
そこで今度は新宿西口店に2号店。
飲食は場所がやはり大事なのですね。
サラリーマン層から絶大な支持を受け、思いがけず行列店に・・・。
まさに飲食業は水商売ですね。
その4 経営指針書で変革
昭和59年(1984年)頃新宿西口で成功して、
この本にはそのあと約10年くらいの記述がありません。
やはり、この10年くらいは非常に厳しかったのではないでしょうか。
この本には書いていないことで、カンブリア宮殿で見ましたが、
会社の本社ビルが出ていました。
新宿のはずれの小さな雑居ビルの一室。
社長室もなければ社長のテーブルの狭いこと・・・。
やはり、これこそ社長の経営哲学なのでしょうね。
飲食業では、利益の生まない事務所や社長室が
いくら豪華でも仕方がないですからね。
福島県でカレー屋を始めてから、数十年。
この社長は成功と失敗を繰り返してきたのでしょう。
なぜ失敗したか、を本当はもっと書いてほしかったです。
そこに学ぶべきものが多いと思うのです・・・。
でも、なかなか失敗談は描けないのでしょうね・・・。
では成功したお話。
これはこれで参考になります。
平成7年(1995年)から「経営指針書」づくりを始めたのです。
どうでしょうか。
この「経営指針書」をまじめに取り組んでいる中小企業が
どれくらいいるのでしょうか。
何度も書きますが、私が信奉する「稲盛経営学」
これは大事なのでしたね。
経営の目標となるものを掲げ、社員とベクトルを合わせためには
経営指針が絶対必要なのです。
「経営指針書」に基づいて「事業計画書」をまとめます。
それを毎年銀行に提出していきます・・・。
そうしたらどんな素晴らしいことが待っていたのでしょうか。
これは非常に参考になるお話です。
その5 事業計画書が会社を救う
平成7年(1995年)東京中小企業家同友会に入会したのがきっかけで
根岸社長は「経営指針書」を作成することを始めました。
こういう「きっかけ」は大事ですね。
周りの経営者見て「これではダメだ。」と悟ったようです。
根岸社長は、ここから本格的に経営の勉強を始めます。
この年代の時代背景分かりますか。
平成3年(1991年)のバブル崩壊後、銀行の貸出が
非常にきつくなってきたのですね。
担保主義からキャッシュフロー主義への転換もあります。
飲食店業界は、これを目の当たりに受けるのですね。
きっと根岸社長も資金繰りで苦しまれたのでしょう。
飲食業特有の、「場当たり的経営」ではやはりダメなのですね。
たぶん、「藁をもすがる思い」でこういう会に入会されたのだと
思います。
この「事業計画書」の毎年の提出によって、銀行の信頼を勝ち取ることが
できたのです。
その大きな力となったのが、平成13年(2001年)のBSE問題の時。
多くの焼肉屋、ステーキ屋が大打撃を受けましたね。
締める店も非常に多かった・・・。
確かに、ねぎしも大打撃です。客足は減少、売上は半減。
しかし、この時銀行は、
「応援しますよ。」
と手を差し伸べてくれたというのです。
「半沢直樹」みたいな立派なバンカーが担当者だったのでしょうか。
でもやはり、経営を前向きにとらえ、毎年「事業計画書」を
出し続けていたからこそなのですね・・・
いい話です・・・。
その6 自分の人生は自分で切り開く
ねぎしは「経営指針書」を作り出すことにより変わりました。
この本では、これで急激に変わったかのような書きぶりです。
個人的な意見ですが、後半はやたら経営コンサルタントの専門用語が
散りばめられていますので、どうもゴーストライターが、
コンサルタントの意見を聞いてまとめたものだと思います。
(すいませんが本音です)
でもここに何かヒントがあると思い何度も読み返しました。
ではそのねぎしの秘密を・・・。
まずねぎしは経営指針書の策定に当たって、「SWOT分析会議」を
全店の店長と本社スタッフメンバーでスタートすることから
始めます。
「SWOT」なんて、コンサルタントが絶対好みそうな言葉ですね。
強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、
機会(Opportunities)、脅威(Threats)
これを分析して、来年度取り込むべき課題を明確化します。
まあこのあたりはどこの企業でもやるでしょう。
そのあとが、このねぎしのまさに「強み」です。
SWOT分析会議で決まった全社重点課題に沿って、今度は各店長が
自分の経営計画を策定します。
年間売上、客数、どんな店にしたいか、そのために力を入れるポイントなど、
数値目標や具体的な取り組みを、店長自らが作るのです。
このあたりすごいと思いませんか。
大手チェーンなどは、本部が決めた目標を各店に割り振っておしまい、
ですからね。
ねぎしは各店の経営は店長にまかせ、本部は口出ししません。
ねぎしで大事にしているという、実にカッコいい精神からなのです。
「自分の人生は自分で切り開く。 自分の店は自分で作る。」
その7 人財教育
「店長自ら経営に参画する仕組み」
でも皆思いますよね。
「それは理想だけど、そんなすばらしい店長はどこにいるんだ!」
「そんな店長がたくさんいれば苦労しない!」
まあきっとそう思いますね。
でもこれこそが「ねぎしの秘密」なのです。
そんなすばらしい店長を作り上げる仕組みがあるのです。
これは参考になります。
まさにねぎしが言うところの「人財教育」ですね。
人材教育でもありません。
この「人財」とはいろいろな経営者から聞いた言葉ですね。
お勧めの経営者本でも何度も出てきました。
伸びる会社はここです。
自ら素晴らしい人財をつくる仕組みがあるのですね。
ねぎしの組織図です。
「逆ピラミッド型」の組織図。
この図も前にアップしたことあります。
思いだしました! はとバスの社長がコレでV字回復したのでしたね。こちら
ねぎしはこれにさらにバージョンアップさせています。
実はこの「人財教育」という仕組みを作り上げるのに
20年もかかっています。
ここをぜひ学んでください・・・。
その8 ねぎしの富士山
人財教育に欠かせないものは「経営理念」
またこのキーワードが出てきましたね。
ねぎしの、これは本当に素晴らしいものがあります。
感動しました。
20年もかけて作り上げたものです。
もうこれはぜひ真似してください。
このねぎしは2012年に「日本経営品質賞」を
受賞されていますが、実は受賞の最大の理由はココです。
逆三角形のお話はしましたが、実はねぎしには
「もう一つの逆三角形」があります。
これみると普通の経営者の方なら驚くかもしれません。
事実前提という「利益をあげるためのピラミッド」です。
以前の多店舗他業種展開していた時のねぎしの姿です。
「利益をひたすら追求する。」
通常の営利企業であれば至極当然ですね。
でもいまのねぎしは違います。
まさに「もう一つの逆ピラミッド」
利益はなんと一番下にあります。
では一番は何か?
「経営理念の具現化とねぎしの思い」
これはどういうことかというと
「何のためにねぎしはあるのか?」
すごいですね・・・。
その9 牛タンと経営理念を噛みしめてください・・
熱くかかってきた「牛たんシリーズ」ですが、
そろそろまとめましょうか・・・。
なかなか「ねぎし」は奥が深いです。
何度も書きますが、20年もかけて出来上がったものですから。
「ねぎしの富士山」の利益は一番下。
でも、これはなかなか真似できません。
飲食業は経営が本当に大変です。
5人でサービスすべきところを4人にすると
確かに人件費は削減できますが、サービスの質が低下します。
食材費を削減すれば確かに経費は削減できます。
でも味が落ちてしまって、結局はこれも客が離れていくというのです。
永年飲食業で成功と失敗を繰り返してきた根岸社長ながらの経営哲学
なのでしょう。
生き残りの厳しい飲食企業でありながら
「100年企業を目指す!」という意気込みが、よく分かると思います。
最後に、ねぎしの「経営理念」を掲げて終わります。
ねぎしは開店時に全スタッフで唱和してから仕事に取り組みます・・・。
どうでしょうか。
牛たんの美味しさを分かっていただけたでしょうか。
一度 「白たん赤たんミックスセット」 でも食べながら、
この経営理念をかみしめてください・・・。
(がんばれ! 100年企業シリーズ! おしまい)