その1 早稲田大商学部の大先輩


読書の秋に寸暇を惜しんで読んでいます・・・。
経営者本ばかりですが。


「どうやって成功したのか?」
「どんな考えでどんな工夫?」


そんなことを考えて読むと実に面白いのですね。

Tahucool

 

 

「グローバルダイニング」という企業をご存知でしょうか?
アメリカ大統領がお忍びで訪れたことで有名な「西麻布 権八」を
経営する外食産業の会社です。
今まで、「ラ・ポエム」、「ゼスト」、「タブローズ」など
伝説のレストランを次々と作り出してきました。


現在ではカジュアルレストランに加え、ディナーレストランも
経営し、沖縄や那須にフードコート、チョコレート専門店、
さらにはバーガー専門店など60店舗も展開。
1999年に東京証券取引所第二部にも上場しています。
急成長してきた外食産業のトップ企業なのですね。

 


その創業者で現在も代表である長谷川耕造氏。
破天荒といったら失礼ですが、大変魅力的な方です。
1950年生まれですから、私より10も上。
なんと早稲田の商学部なのですね。
大先輩なのですが、わずか2年で中退しています。
その後2年間の海外放浪。そんな数奇な経歴を経て
この外食産業に飛び込んできました。
23歳にして、有限会社長谷川実業を設立。
最初は喫茶店からスタートです。


外食産業に携わる方には大変参考になるお話ばかりです。
確かに現在は外食産業の景気は厳しいです。
でもこの逆境を乗り切る強烈な個性をお持ちの方です。
まさに「タフ&クール」


奇しくも、アメリカ大統領が決定する今日。
大統領がお忍びで来たくなるくらい美味しいお店が
どんなものなのかご紹介していきましょう。




その2 成功する経営者の生い立ち


長谷川社長は1950年、横浜の荒っぽい漁師町に
酒屋兼米屋の長男として生まれました。


もうここで、私なりの大事な「突っ込み」。
いろいろ経営者本をご紹介してきましたが、
「偉大な経営者は商売人の子供が多い」のですね。
これはある程度「真理」だと思っています。


以前ユニクロやソフトバンクも取り上げましたが、
お二人とも商売人の息子です。
ユニクロの柳井社長は洋服屋の二代目ですし、こちら
ソフトバンクの孫社長もパチンコ屋の息子です。こちら
どうも幼児期の体験が「商売人としての気質」を
育んでいるように思うのですね。


これはサラリーマンの息子として育った私が
心から感じているところなのです。


「経営は人から教わるものでもない」


こう思っているからなのです。
大学で経営学を極めてから、「立派な社長になった方」は
ほとんどいないですよね。(失礼ながらそう思います)
ここは研究中ですが、「経営とは肌感覚が必要」
そうも思っています・・・。


さて、長谷川社長のお話に戻りますが、
漁師町で荒々しくもまれて育った長谷川少年は、
中学を受験して、中高一貫で有名な「浅野学園」に進みます。
そこからまた猛勉強して、神奈川県ではトップの「湘南高校」に進むのですね。
なかなかの秀才だったようです。
進学校に通いながら、長谷川社長はここで青春を謳歌しています。
読書、映画、ジャズ・・。
この高校時代に培った感性が、その後のグローバルダイニングの店づくりに
表現されていると述べています・・・。
そうして大学受験。
県下トップの進学校で、当然の東大受験。
でも残念ながら現役では不合格。予備校に通ってここでも猛勉強。
でもここで「人生最大の挫折」を味わうのですね。
大学闘争のあおりを受けて
なんと入試は中止となってしまったのです。
まさに庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」の世代なのですね。
それで早稲田大学商学部に入学。


人生の目標を求め彼はもがき苦しみます・・・。


「ぼくにとっての大学は、入学することに価値があっただけの存在だった」

最初からサラリーマンになるつもりもなかったようです。


何となくこのあたり私も共感してしまうのですね。
私も一年浪人して何とか早稲田大学商学部に入学。
「大学って何だろう」自問自答した青春の日々・・・。
でも私と圧倒的に違ったのは、それを求めた結果の彼の行動。


大学に失望した長谷川社長は2年で大学を中退。
そしてヨーロッパを放浪。
スウェーデンで皿洗いのバイトをしながらお金を貯め、
行きついたのはフィンランド。
そこで運命の女性と出会う・・・。


(本当にカッコイイと思いませんか・・・)





その3 喫茶店で大成功


高田馬場の駅前にF1ビルがあります。
今もあるこのビルは、私も早稲田の学生時代によく行きました。
このビルの中に碁会所があり、そこが早稲田囲碁部の練習場
だったからなのですね・・・。


そのF1ビルの地下に1973年、長谷川社長が若干23歳ながら
喫茶店「北欧館」をオープンします。
朝9時から夜11時まで店を開き必死に働いたそうです。


その努力の結果、「北欧館」は一日に480人も来店する大繁盛店に
なったのですね。


なぜなったのか?
もうこのころから長谷川社長は商才があったとしか言えませんね。
ビジネス経験もない23歳の若者がそう簡単には
商売を成功させられないはずですからね。


ノウハウも知識もない。でも最初から「5年間で3店舗つくろう」と
邁進したのです。
面白いエピソードがのっていました。
「2年間で1000万円貯めます!」と銀行に宣言して、
見事実行した。
その結果、その2年後に即2000万円の融資が実行されたそうです。


ちょっと考えられないですが、参考になるお話ですね。
でも、今から40年も前のお話しながら、25歳の若者に2000万円を
融資をしてくれる銀行があったのですね。


そこでその2000万円を元手に今度は六本木に進出します。


なぜ喫茶店を最初に始めたかというと
「素人でもできるから」
まさにそうでしょうね。


今度は六本木に何を開いたかというと
「パブ」です。
本当はレストランを開きたかったそうですが、
食事を提供するコックもまたそのノウハウもなかった・・・。


長谷川社長は大胆な行動ながら、意外と慎重な面も持っているのですね。
でも1970年代に六本木を選んだというのも見事ですね。
当時もファッショナブルの店も多かったでしょうし、
昔流行った「ディスコ」も多かったし・・・。


ここでも苦労したものの成功させるのですね。
来店客を増やすために、インベーダーゲームを店に置いたそうです。
ディスコやインベーダーゲームなんて、私の年代では
懐かしい響きを感じる言葉ですね・・・。


そうして今度は原宿にも進出。
まさに有言実行。
28歳で3店舗の経営者に。見事です・・・。




その4  MMT理論 


今日はちょっと変わったお話。
いままで、経営者本をいろいろご紹介してきましたが、
ここで経営者の自伝の私なりの読み方をご披露しておきましょう。


日本経済新聞の裏面に「私の履歴書」ってありますね。
日本を代表する経済人が毎月登場してきますね。
私の愛読記事でもあります。
その「読み方」を10数年前にあるところで読んで
さらに私なりにアレンジしたものです。
名づけて「MMT理論」といいます。


M=Mother(母)
M=Meet(出会い)
T=Take The Chance(チャンスを掴む)


この三点から偉人がなぜ成功したかを観察するというものです。
ただ漠然と読むのでなく、この3点は必ず当てはまるのですね。
「私の履歴書」だけではないのです。
私のご紹介する経営者本でもこの読み方をしています。


簡単にご紹介すると
M=「母」は、大事ですね。父ではないというとことがミソです。
母の影響は大きいのです。
最初に申し上げた「生い立ち」が大事ですからね。
そういう意味でも商売人の子供というものも当てはまると思いませんか。
サラリーマンの子供がなぜだめかということもこのことからも
想像つくでしょう。


M=「出会い」これも分かりますよね。
自分を高めてくれる人に出会うこと。
これによってその人が急速に伸びるのですね。
偉人は必ずキーパーソンに出会っています。


T=「チャンスを掴むこと。」
成功する人はこのチャンスの掴み方がうまいのです。
どんな人にもチャンスが訪れます。
そのチャンスをどう生かすかにかかっているのですね。


では、この「MMT理論」から、
グローバルダイニング長谷川耕造社長を検証してみましょう。
「母」によりかなり影響があったようです。逆に父とかなり確執があった・・・。
このあたり触れたくないのか書いていません。
「出会い」これは長谷川氏がいろいろな人に出会って
グローバルダイニングを大きくしたと思うのですが、
私なりに思うのは、一従業員として入社してきた「新川義弘氏」でしょうね。
その後グローバルダイニングの副社長まで上り詰めました。
この方がグローバルダイニングを大きくしたといっても過言ではないでしょう。


「チャンス」これは三宿の大成功なのでしょうね。
東京でもそれほど知られた町でもなかった三宿を
このグローバルダイニングによって知名度の高い街にしました。
それとやはりアメリカ大統領がお忍びで訪れるレストランということで
また有名に・・・。


この三点はやはり当てはまりますね。
企業経営をさせるにはこのMMTなのです。


それにしても、この新川義弘氏は本当にサービスの天才です。
本当に素晴らしい方です。
さらに私なりにそのサービスの研究もしました。
この「新川理論」はあとで発表します・・・。




その5 失敗の法則


昨日の新説「MMT理論」をご紹介したら
もう一つ書きたくなりました。


経営者本の読み方は、やはり「失敗の法則」を学ぶことも
重要だと思うのですね。


確かに成功したお話、まさにT=Take The Chance(チャンスを掴む)は
読んでいて面白いです。


でも学ぶものは、なぜ失敗したかも重要だと思うのですね。
そういうことを赤裸々に書いてくれる経営者本が
読んでいて非常に為になるのです。


企業経営は常にリスクが伴います。
一度失敗したら、それこそ立ち直れなくなり、最悪は倒産することも
当然あり得ます。
そんな「失敗の法則」を活字から学べるのは大事なのです。
OJTで「失敗」を学ぶことはやはり許されないのですから。


長谷川社長も23歳で起業し、わずか10年ほどで
7店舗、正社員が25名、アルバイト100名、
年間売上が8億円まで急拡大してきました。


私も現場の税理士として、企業の成長過程をたくさん見てきました。
でもこの8億から10億くらいの拡大過程で、
大きな「壁」があるのですね。
特に若い社長ならなおさらです。


特に飲食店の場合は、個店の場合は、経営者=店長ですからね。
これを「組織」にしてくると、人の問題が出てきます。
つまり優秀な店長を育てなければならない。
長谷川社長は本当に苦労します。


ここで社長は「失敗」をしてしまいます。
つまり、長谷川社長はこう考えていたのですね。


「お客さんというのはあくまで『店』の魅力に引き寄せるのであって
決してそこで働く『店員』のサービスの魅力に引き寄せるのではない」


こう間違って考えていたのですね。
だから店舗拡大で苦労していたのです。
お分かりになりますか?
なぜこれが失敗と言えるか。


それまで、体系だった社員教育システムはなかったし、
つくろうともしなかった。
ワンマン企業の典型的はお話ですね。
これも中小企業で見聞きするところです。


「従業員が客を呼べるサービスを提供すること」

失敗を繰り返しながらも、長谷川社長はようやくここに
気が付いたのです・・・。




その6 どこへ行くグローバルダイニング



今まで「エラそうに」ミッドナイトレストランのことを
あれこれ書いてきましたが、正直言うと、ここで一度も深夜に
食事なんかしたことないのですね。すいません。
そんな者が、知ったかぶりのウンチクを書くのも失礼ですね。
そろそろまとめましょうか。


実はグローバルダイニングは、今苦境に立たされています。
平成19年12月期の売上高169億円をピークに
減収が続いています。
その年から赤字転落。以降5期連続の赤字です。
その後のリーマン・ショックやデフレの影響、
飲酒運転禁止の徹底で、まさに外食業界そのものが逆風に
さらされていますから。
上場企業ながら、本当に厳しい状況ですね。


私なりここで厳しい意見。
平成11年にグローバルダイニングが東証2部に上場しました。
株価は初日1万円を越えます。
でもこの「上場は失敗」ではなかったかと思うのです。
まさに「失敗の法則」であったと。
外食産業で上場することの意味が問われているのです。


問題は、「幹部社員がこぞって株を売却して辞めたこと」
なのですね。
上場前の会社では、オーナーが社員に持ち株を分け与えることが
よくあります。
でも上場してトンデモナイ値がつくことも、昔はあったのです。
一億近いカネを手にして会社を去ったものが多かったそうです。
外食産業に従事する人は皆どこかで「自分の店を持ちたい」
それが夢であるのは間違いないからです。


それとどうもこの会社は、幹部社員が定着しないのですね。
長谷川社長の超ワンマンぶりがうかがえます。


そのあとさらに最悪の事態に陥ったのです。
平成17年に新川氏ら創業時からの幹部3名が辞めてしまうのです。
特に副社長まで上り詰めた新川氏の退社。
この影響は大きかったのでしょう。


赤字に転落したのもこれがきかっけかもしれません。


さらに、その後の後継者も不在です。
この本にも将来の後継者として、
専務の河村征治氏の名前も出ていましたが
私の調べたところでは平成23年5月に退任しています。


本当に異常事態なのでしょうね。


グローバルダイニングはいったいどこへ向かうのでしょうか。
株価は今や100円台。時価総額は10億円ほど。
M&Aの標的にもなっているかもしれません。
閉店のラッシュでしばらくは赤字が続くでしょう。
有価証券報告書にはかなり厳しいことも書いていました・・・。


それでもこの長谷川社長はきっと
タフに、そしてクールにこの難局を乗り切ってくれるでしょう。


ラ・ポエムでパスタでも食べたくなりましたか・・・。


(頑張れ!外食産業の星シリーズ おしまい)

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